筆者が体験した「前のめりな客と」の対決

私も、これまで国内外問わず、大小さまざま劇場で、1000回以上観劇しているが、何度も前傾姿勢の被害にあっている。しかし、直接注意することはなかなかできない。

10年近く前、ある劇場で、前の人が極端な前傾姿勢でかなりの視界をさえぎられたので、上演中に注意したところ、「あなたも前傾姿勢になればいいじゃないですか」とキレられた。しかし、こちらが前傾になってもよく見えないし、後ろの人に迷惑がかかることは明白だ。いたたまれなくなり、上演中だが席を立ったところ、劇場の人が気をきかせてくれ、空いている別の席を案内してくれた。

それ以来、私は直接注意することは避けている。幕間のある芝居なら、休憩時間に係員に相談する。幕間のない芝居なら、運が悪かったと思ってあきらめる。

とはいっても、あきらめるには芝居のチケットは高額すぎるし、人気の舞台はチケット入手自体が困難だったりする。時間と費用を工面し、今、この瞬間にしか体験できない、ライブの舞台を見るために、心は俄然、前のめりで、劇場に行くのだ。それでも、他人に迷惑をかけず、劇場という空間そのものを楽しみたいからこそ、決して「前傾姿勢はしない」

劇、ミュージカル、歌舞伎、バレエ、オペラ、文楽……舞台といってもいろんな種類があるけれど、「生の舞台」はどうしても高額なチケットも多いし、必死でチケットを取ることも多い Photo by iStock

そんなわけで、劇場の大小に関わらず、前傾姿勢での観劇は明らかに迷惑だ(鴻上さんのコメントのように、1階席より、傾斜の強い2、3階席のほうがより迷惑度が強調される。また、数は少ないが前傾姿勢での観劇を前提としている客席もあることを付け加えておく)。

前傾姿勢(前かがみ、前のめり)の解釈や、「見やすい」「見にくい」の解釈に個人差があることを前提に、劇団や劇場が公式に「ご遠慮下さい」とアナウンスしているのは、「前傾姿勢での観劇を迷惑行為と認識している」から。そして、中にはいったいなぜ前傾姿勢が迷惑行為か、またそれがいかに後ろの観客の視界を妨害するかわからない観客も存在するからだ。そして、それは仕方ないことだと私は思う。

年に一度、劇場に行くか行かないかという友人と一緒に観劇した際、前傾姿勢の注意喚起のアナウンスを、「なんで? 危ないから?」と不思議がっていた。だからこそ、私はこのアナウンスは必要だと思うし、心の中で、「ちょっと、今、大切なこと言ってるのよ、みんなよく聞いてちょうだい」と思っている。

ちなみに、伝統芸能の世界では、高い結髪や背もたれに背がつかないほどのボリュームのある帯結びでの観劇が問題になっていたりもする。そんななか、「前傾姿勢での観劇はご遠慮ください」と、明確にアナウンスしてくれる、日本の劇場、劇団は親切だ、ありがとうと、私は快哉を叫びたい。