エジプトの血を引く兄弟が「純日本産ウォッカ」づくりに賭ける理由

実は巨大な市場が広がっている
松岡 久蔵 プロフィール

ウォッカなら勝負できる

アリーさんは、西岡河村酒造から日本酒酒蔵の魅力を教わるうち、日本のものづくりに共通する素晴らしさに気づいたという。

「日本は昔、半導体などのハイテクで世界を席巻しましたが、今は技術流出で中国や韓国に追いつかれてしまっています。その一方で、最近の世界的な和食ブームにみられるように、食の分野では上り調子で、特に作り込みの丁寧さが、海外で『日本の食は安心安全』というブランドになっている。

起業家精神は父親譲りですから、実はこのとき独立を考えていたんです。日本の酒造技術を生かして、それを海外展開できるような会社を起こそうと思いました」

お酒のオリジナルブランドを立ち上げることを決めたのはいいが、酒といっても様々だ。アリーさんは、「世界のナイトシーンでもっとも飲まれている」とされるウォッカに目を付けた。

 

下戸の多い日本人には「とにかく度数の高い酒」と敬遠されがちなウォッカだが、海外ではナイトクラブやバーなどで日常的に親しまれ、テキーラやドイツのイェーガーなどとともに「ショット市場」と呼ばれる一大ジャンルを築いている。

日本産のウォッカは数が少なく、提供する店舗も限られ、イベントなどでしかお目にかかれない。アリーさんは「ライバルが少ないからこそ、商品力で勝てると思った」と話す。

アリーさんは西岡河村酒造とともに試行錯誤を繰り返し、クラフトウォッカ「キーズ&ブリックス」を2017年に完成させた。

新商品のストレートウォッカは、米本来の旨みを生かして丁寧に仕上げ、すっきりとした飲み心地を実現。メジャーブランドのウォッカに比べて度数が低く、飲みやすさも重視している。名前には「ブロックのように堅い業界の秩序を壊すカギになってほしい」との願いが込められた。

クラフトウォッカ「キーズ・アンド・ブリックス」

「酒造業界は、他の業界に比べても個人業者の新規参入が非常に難しいんです。

例えば、オリジナルの瓶を作ろうとすると一度に十数万本発注する必要があり、原料のアルコールもタンクローリーで引かないと原価が合ってこない。量がハケないとその分は丸々赤字になってしまう。初期投資がものすごくかかる、リスキーなビジネスなんです。

でも、お酒っておいしいし、何より生活を豊かにしてくれますよね。色んな選択肢があるほうが、絶対に消費者にとってもいい。僕たちが先頭に立っていきたいと思っています」