エジプトの血を引く兄弟が「純日本産ウォッカ」づくりに賭ける理由

実は巨大な市場が広がっている

実は、「世界で最も飲まれているお酒」と言われるウォッカ。日本産のものが海外で人気となるなど、目下流行している「クラフトジン」の次には「クラフトウォッカ」が来る、とにらむ酒好きがいま、ひそかに増えている。

しかし現在のところ、日本産のウォッカは海外ではほとんど飲まれていない。

「和風とか漢字とか、いかにも日本っぽくして海外ウケ狙うのって、もうダサいんですよ。スポーツと同じで、中身がよければ、どこの国のものかなんて気にならない」

そうした中、日本初の国産クラフトウォッカメーカー「ADIATE(アディエート)」を立ち上げた、エルサムニー・アリーさん(33)はこう話す。アリーさんは元Jリーガーで、エジプト人の父と日本人の母を両親にもつ。ともに経営に携わる弟のオサマさん(31)も元Jリーガー。兄弟で日々、オリジナルウォッカの販路拡大に努めている。福井県で米醸造された、オリジナルウォッカの誕生秘話を明かそう。

アリーさん(右)とオサマさん兄弟

日本の酒造技術に惚れ込んで

アリーさんとオサマさんの父は、エジプト代表のサッカー選手だった。ケガで引退した後、「かつてのチームメイトが活躍する姿をテレビで見るのがつらい」と感じて一念発起。東京外語大学で父親(アリーさんたち兄弟の祖父)が教授を務めていたこともあり、日本に移住した。そうして知り合った日本人女性と結婚し、アリーさん、オサマさんが生まれた。

父の才能を受け継いだ兄弟は、サッカーでみるみるうちに頭角を現した。アリーさんは高校卒業後、2年のエジプト留学を経て東京ヴェルディに入団、大学の奨学金も獲得した。プロ生活は1年と短かかったものの、「スポーツで培った体力や精神力は、会社経営に生かせています」と語る。

弟のオサマさんも、高校卒業後に東京ヴェルディに入団し、3年間活躍した。その後はチェコリーグで活躍後、再びJリーグのモンテディオ山形に入団、J3リーグのY.S.C.C.横浜を最後に4年前に現役を引退した。

個性的な経歴の兄弟だが、そもそもなぜ、オリジナルウォッカで起業することになったのだろうか?

兄のアリーさんは、現役を引退した後、物販会社などを経て2015年7月に「アディエート」を設立した。「創造する(create)」ことに「中毒になる(addict)」というのが社名の由来だ。

会社員時代のアリーさんは、パーティ向けのゼリータイプのショット酒の製造を任され、日本国内の酒造会社に片っ端から電話をかけた。そのとき出会ったのが、現在のビジネスパートナー、福井県の西岡河村酒造だ。

 

西岡河村酒造は創業100年を超える老舗だが、アリーさんの依頼を「うちはお酒ゼリーの研究もしてたから、すぐつくれるよ」と快諾。地元の名士が経営することが多く、保守的な酒造メーカーの中では異例の対応だった。

早速、現地に飛んだアリーさんは、社長の緻密な技術とチャレンジ精神、将来を見据えた先見性に感動したという。

「完全に惚れ込んでしまって、その後、社長さんには2年間ほとんど毎日電話しました(笑)。そうして想いが伝わり、商品化に成功しました。そのとき教えていただいた、酒税法やお酒に関する知識は、いまでも宝物ですね」