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覚えた絵空事を使ってしまう「知識の誘惑幻惑効果」から自由になる法

お題エッセイ、ついに最終回!

ブルーバックス×現代新書×東京大学。専門分野の異なる2人の東大教授に、2つの新書シリーズに所属する3人の編集者が「お題エッセイ」で挑むジャンル越境企画「2×3(ツーバイスリー)」いよいよ最終回。
佐倉統先生の挑むラストお題は「絵空事」です!

絵空事だった「技術的特異点」

近い将来、人工知能(AI)が知性や能力で人間を凌駕し、人類はもはやAIの「しもべ」としてコンピューターと融合合体し、人と機械の新たな共生体が地球の支配者となる──こんな誇大妄想的狂騒が、「技術的特異点(テクノロジカル・シンギュラリティ)」と称していっとき話題を呼んだ。

さすがにこれは絵空事であることが知れ渡り、最近では真面目に取り合う向きは少なくなったようだ。

しかし、そんな絵空事を尻目に人工知能の技術(能力?)は着実に発展(成長?)して実用化(社会進出?)はものすごい勢いで進んでいる。

technological singularityそれでも人工知能の進化は止まらない Illustration by Getty Images

すでに医療や農業や会計やデザイン、その他、さまざまな仕事に影響を与えているし、この傾向は今後ますます強くなっていくだろう。

絵空事ではない「歌う人工知能」

先日、中国の人工知能学会から招待されて初めて参加したのだが、自動運転や自動翻訳など、この分野の中国の勢いの良さと鼻息の荒さが全開になっていて、とてもおもしろかった。

倫理的な問題についても力を入れはじめていて、AIの研究開発と社会普及に関するさまざまな規制・指針・ガイドラインなどが世界中で雨後の竹の子のように乱立している状況に遅れを取るまいという姿勢が感じられる。

その大会での基調講演者のひとりが、マイクロソフトのコンピュータ科学者・沈向洋 (Harry Shum)博士で、これがまた、とてつもなくわくわくする話だった。

マイクロソフトが開発した人工知能搭載対話システム「シャオアイス(小氷)」に、何がどこまでできるか、という内容である。

この対話システムはSNSなどで対話的にユーザーとやりとりをする人工知能で、ニューラルネットで学習する能力が搭載されている。

いくつかの国でほぼ同じものが導入されていて、シャオアイスは中国での名前で、日本では「りんな」(ツイッターはhttps://twitter.com/ms_rinna、アメリカでは「テイ Tay」となっている。

しかしテイは2016年にリリースされるやいなや、あっという間に人種差別的なヘイトスピーチばかり発言するようになってしまった。マイクロソフトは修正を試みたが断念し、テイの公開を中止した

中国と日本ではすくすくと育ったAIがアメリカでは不良少女になってしまったことは、とても興味深い。人類とAIの関係を考える上で、示唆に富む。

AIに何ができるかだけが問題なのではない。AIを育て、成長させていくのは、人間の社会だ。社会が、ぼくたちが、どういうAIを欲しているかが大事なのだ。

さて、そのシャオアイスやりんなは、今、芸術活動をせっせと学んでいる。沈向洋はその様子を報告してくれた。

詩を書き、絵を描き、歌を歌う。正直、詩や絵の出来映えはイマイチといったところで、絵画を美大の卒業研究に混ぜて3人の教授に審査してもらったところ、うち2人が不合格の判定だったとか。それでもぼくよりははるかに上手だけど。