ビットコインの創始者「サトシ・ナカモト」という虚像の正体

静かに消えてしまったほうがいい
上田 岳弘, マルク カルプレス

全知だけど全能ではない世界

上田 テクノロジーによって便利にはなると思いますけど、実は幸せになれるかどうかは関係ないんじゃないかなって最近思うようになりました。全知だけど全能じゃない世界と言いますか。

マルク どういうことでしょうか。

上田 見えているものと、できることの乖離が激しいということです。例えば、今や遺伝子解析の技術によって、遺伝子異常を把握できるようになっています。ただし、その異常をどうやったら改善できるかはまだ実現できていない。いずれは全知と全能はイコールで繋がるかもしれませんが、その狭間は不快感やもどかしさを伴う。

マルク 確かにそういった感覚はあります。ただ、一方で乖離があるからこそ、それを埋めようと進歩していく面もあるはずですよね。ある意味では、その余地が救いや希望にもなり得ます。

上田 結局、世の中の効率化が極まっていくと、判断の枝分かれが全て分析できるようになってしまうと思いませんか。どんな出来事に対しても一定の選択肢があって、そのあとの答えも決まっている。そうすると「生きる必要ないじゃん」ということにもなりかねない。それだとすごく味気ないし、ある種の危機だと感じています。

 

マルク どの時代でも、あえて非常識なことを実行する人がいるからこそ何かしら発展することがあります。それこそ上田さんの本に出てきたようなダメな飛行機コレクションのような失敗は大事です。

上田 ダメな飛行機ってとても多様なんです。例えば、かつてソ連が研究していた原子力飛行機は、燃費を向上させるために被爆を防ぐシールドを取ってしまい、パイロットが死んでしまうという愚かさがありました。ほかにも、カモメの形を真似たけれども飛べなかった飛行機など、様々なパターンのミスにより実用化されなかった飛行機がたくさんあります。

しかし、すでに成功のノウハウが蓄積されている現代では、失敗自体がタブーになっている。もはやこのような飛行機は技術的には作れても、誰も実現できないものになっています。失敗が簡単なようで難しくなるという、なんとも言えないパラドックスを、現状の息苦しさに対置したかったんですよね。