ビットコインが1万ドルの大台を突破したかと思ったら、ふたたび急降下するなど激しい値動きを繰り返す仮想通貨市場。米フェイスブックが新たな仮想通貨・リブラの発行を発表するなど、ここへきて再び仮想通貨への「熱」が高まっている。
そうした中、仮想通貨取引所・マウントゴックスの元社長で、このほど『仮想通貨3.0』 を上梓したばかりのマルク・カルプレス氏と、ビットコインを通して人間の存在に迫った『ニムロッド』 で第160回芥川賞受賞した上田岳弘氏による「異色対談」が実現。技術者と小説家、それぞれの立場から仮想通貨について考え抜いた二人だが、ビットコインの創始者とされるサトシ・ナカモトが二人の「共通項」であることが明らかになって――。
(取材・構成:橋本歩、写真:西崎進也)
マルク・カルプレス まずは芥川賞受賞おめでとうございます。
上田岳弘 ありがとうございます。芥川賞のことはご存知ですか?
マルク 日本でとても栄誉ある賞だと聞いています。
上田 マルクさんは日本語の本は読んだりするんですか。
マルク 少しだけですね。会話はできますが漢字を読むのにはまだ苦労しています。上田さんの本も仕事の合間を縫って読ませてもらいました。
上田 僕がマルクさんを初めてお見かけしたのは、マウントゴックスの記者会見がニュースで流れた時だったと思います。
マルク 2014年の2月28日の記者会見ですね。マウントゴックスの破綻を発表した忘れられない日です。あの時は物事が進むスピードが早すぎて感覚が麻痺していました。それに当時29歳で、人生初めての記者会見だったので何がなんだか……。
上田 キョトンとした感じで謝罪されているなっていう印象を受けました。面食らっている感じというか。
マルク もしかしてマウントゴックスのお客さんだったんでしょうか。
上田 いえ、違います(笑)。
上田 ただ、ビットコインの存在自体は2011年ごろには知っていました。当時は今ほどの盛り上がりはなかったものの、「いよいよこんなものが出てきたんだ」という驚きがありましたね。
マルク 最初は、それこそ私を含めた一部の技術者たちが面白がっていたに過ぎませんでした。そこからアメリカのタイム誌で紹介されたのをきっかけに、あっという間に価格が上がり、どんどんと投資目的の人たちが集まってきた。やはり人間誰しも「儲かる」と言われれば飛びつきますからね。