安倍首相の評価が真っ二つに分かれる「これだけの理由」

自民党のあり方を疑問視していた時期も
中島 岳志 プロフィール

アンチ左翼、アンチ・リベラル

安倍さんの最大の特徴は、「左翼」や「リベラル」に対する敵意を明確に示すところです。

最初の著作である『「保守革命」宣言』では、日本の「リベラル」はヨーロッパ型ではなく、アメリカ型であるとしたうえで、それは「社会主義」に極めて近いかたちの「福祉主義」であり、進歩主義と親和的であると言います。

また、村山富市内閣の「人にやさしい政治」はこの「リベラル」に当たると述べたうえで、自分の「保守」は「曖昧な「リベラル」的ムードに、明確に「否」と意思表示していく立場」であると規定します(『「保守革命」宣言』)。『「保守革命」宣言』のサブタイトルは、「アンチ・リベラルへの選択」です。

 

安倍さんは政治家になりたての頃、保守思想家・西部邁さんの保守の定義に「一番共鳴」したようですが(前掲書)、そもそもは保守への思想的関心よりも、アンチ左翼という思いが先行していたと率直に述べています。

私が保守主義に傾いていったというのは、スタートは「保守主義」そのものに魅か れるというよりも、むしろ「進歩派」「革新」と呼ばれた人達のうさん臭さに反発したということでしかなかったわけです。(前掲書)

安倍さんの左翼批判は加速していきます。首相就任を2年後に控えた2004年の対談本『この国を守る決意』では、露骨な左翼批判が繰り返されます。

安倍さんによると、左派の人たちは「全く論理的でない主張をする勢力」であり、「戦後の空気」のなかにあると言います(『この国を守る決意』)。

そうした人々は、例えば自国のことでありながら、日本が安全保障体制を確立しようとするとそれを阻止しようとしたり、また日本の歴史観を貶めたり、誇りを持たせないようにする行動に出ます。一方で、日本と敵対している国に対しての強いシンパシーを送ったり、そうした国の人々に日本政府に訴訟を起こすようにたきつけたり、いろいろなところでそういう運動が展開されています。(前掲書)

安倍さんは、自民党議員の一部も「戦後の空気」に感染していると指摘し、いら立ちをあらわにします。拉致問題をめぐっては「情」よりも、核問題に対処する「知」を優先すべきだという議論が党内から出てきたのに対し、「これはおかしいと思って、私はあらゆるテレビや講演を通じて、また国会の答弁などで徹底的に論破しました」と語っています(前掲書)。

ここで「論破」という言葉を使っているのが、安倍晋三という政治家の特徴をよく表していると言えるでしょう。相手の見解に耳を傾けながら丁寧に合意形成を進めるのではなく、自らの正しさに基づいて「論破」することに価値を見出しているというのがわかります。しかも、その相手は同じ自民党のメンバーです。

安倍さんは次のようにも言います。

戦後の外交安全保障の議論を現在検証すると、いわゆる良心的、進歩的、リベラルという言葉で粉飾した左翼の論者が、いかにいいかげんで間違っていたかがわかります。議論としては勝負あったということなのですが、いまだに政界やマスコミでスタイルを変えながら影響力を維持しています。(前掲書)

このような一方的な勝利宣言をしたものの、不満はおさまりません。自分たちは正しく、 左翼が間違えていることが明確にもかかわらず、自分たちのほうが少数派で、「ちょっと変わった人たち」とされてきたことに納得がいかないと言います(前掲書)。