トランプ「安保改定」発言に慌てる安倍政権、安保政策の大きな矛盾

日米安保のゆくえ
添谷 芳秀 プロフィール

結論を大まかに描いておこう。現行の日米安保条約の規定(第5条)では、日米の共同行動が実行されるのは、「日本の施政の下にある領域」への攻撃が行われたときに限られている。しかし、平和安全法制で集団的自衛権が一部容認されたことにより、日米が軍事的な共同行動をとれる地理的な「範囲」は広がったのだ。すなわち今や、日本の「外」での米国への攻撃に対しても日本は米国と共同行動をとれるのである。

今回のトランプ大統領の発言は、従来からの持論を述べたもので、必ずしもこうした平和安全法制の論理を理解した上でのものではないかもしれない。しかし、日米安保条約の「改定」を安倍首相に働きかけてきたことが事実であれば、本稿が示す論理が、いずれ現実問題として浮上する可能性がないとは言い切れないだろう。

にもかかわらず、安倍首相はトランプ大統領による安保改定の働き掛けを正面から受け止めているようにはみえない。図らずもこれは、政権が一貫した安全保障政策を描けていないことを示しているのではないだろうか。

 

平和安全法制とはなんだったのか

まず、平和安全法制についておさらいをしておこう。平和安全法制については、議論の混線を避けるために、それが「重要影響事態」「国際平和支援」「存立危機事態」の3つの領域をカバーしたものであることをまず確認しておきたい。

重要影響事態とは、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」であり、そこでの自衛隊の活動は「米軍等」への後方支援活動、捜索救助活動、船舶検査活動に限られ、従来通り自衛隊による戦闘行為や他国軍との「一体化」は禁じられる。

国際平和支援に関しては、新たに恒久法として「国際平和支援法」が制定された。同法は、国連決議に基づき活動する諸外国の軍隊等に対する物品と役務の提供、捜索救助活動、船舶検査活動等を定め、「駆け付け警護」の実施のための武器使用を可能とした。

そして、トランプ大統領の発言との関係において重要なのが、存立危機事態における集団的自衛権の行使問題である。これは、「密接な関係にある他国」に対する攻撃が発生し、それによって日本の「存立」が脅かされる場合に、内閣総理大臣が自衛隊の出動を命じることができるとしたものだ。

〔PHOTO〕Gettyimages

平和安全法制下では、存立危機事態における集団的自衛権の行使に関連して、2つの法律が改正された。

まず、2003年に制定された有事法制の基本法ともいえる「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に「存立危機事態」への対応を盛り込み、法律の呼称も「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」となった(「及び存立危機事態」を追加)。