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トランプ「安保改定」発言に慌てる安倍政権、安保政策の大きな矛盾

日米安保のゆくえ
トランプ大統領の「日米安保見直し」発言が波紋を広げている。安倍晋三首相は、その発言を正面から受け止めて議論することを避けているようにみえるが、そうした態度は、2015年に安倍首相自身が「平和安全法制」主導し策定したことと矛盾するのではないか——。『日本の外交』などの著作がある慶應義塾大学教授の添谷芳秀氏が、日米安保条約の本質から解説する。

2015年の「平和安全法制」との矛盾

ドナルド・トランプ米大統領は、大統領選挙中から日本の「安保ただ乗り」への不満を公言していた。彼が選挙に勝利するや否や、2016年11月17日(現地時間)に安倍晋三首相がニューヨークのトランプタワーを訪ねたことには、トランプ次期大統領の一方的な日本の「安保ただ乗り」の認識を正そうとする危機管理外交として意味合いがあった。

その後安倍首相が、トランプ大統領に対する徹底した「抱きつき外交」を繰り返してきたことは、周知のとおりである。

ところが、最近になって、トランプ大統領の認識に基本的な変化がないことが改めて露呈している。そのきっかけは、米国のブルームバーグ通信の報道だった。6月24日(現地時間)に、トランプ大統領が側近に対して日米安保条約破棄の可能性をほのめかしたという証言を、3名の関係者から得たと伝えたのだ。

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さっそく菅義偉官房長官が、そのような動きはないと火消しに努めた。しかし翌日になると、トランプ大統領自身がテレビのインタビューで「アメリカが攻撃されても......日本はソニーのテレビで見るだけだ」と、日米安保条約の片務性への不満を表明した。

さらに追い打ちをかけるかのように、主要20カ国・地域(G20)首脳会議で来日したトランプ大統領は、6月29日の大阪市での記者会見で、日米安保条約について「不公平な合意だ」と述べ、安倍首相に「改定しなければならないと伝えた」と明らかにした

そして、「半年間、彼(安倍首相)にこの話をしてきた。彼も分かっているし(改定に)異議を持っていないはずだ」と述べたのである。

 

大阪の記者会見でのトランプ大統領の発言を受けて安倍首相は、6月30日夜のインターネット番組で、「大統領の考えを述べられたのだろう」と語り、日米安保条約の「改定」への言及に関して「日米同盟を破棄する考えはないと述べているのだろうと思う」と、正面からコメントすることを避けた。

ただ、そこで安倍首相は、かなり本質的なことにも言及した。すなわち、集団的自衛権の行使を一部容認する2015年の「平和安全法制」で日米同盟が強化されたとし、「自衛隊と憲法の関係で私たちが何ができるかは、はじめてトランプタワーでお目にかかった時から説明している」と述べたのである。

さて、ここで考えたいのは、安倍首相の発言にある平和安全法制下での「自衛隊と憲法の関係」、そしてトランプ大統領のいう日米安保条約の改定についてである(主要な論点は、拙著『安全保障を問いなおす』NHKブックス、2016年、で詳しく論じた)。

以下では、安倍首相が主導した平和安全法制策定の流れのなかで、トランプ大統領が提起したような「日米安保条約の改定」を迫られる可能性が生じたことを示したい。