「倒れないように」

淡い手応えを感じはじめていた私は、休憩もそこそこにトラックに戻ることにした。

再び第2レーンへ。

北村の手が離れる。

私はゆっくりと息を吐く。

ドッドッと打つ心臓の音を感じながら、慎重に左足を振り出す。静かなスタジアムに、ガシャッという着地の音が響く。次は右足だ。バランスを崩さないように、そっと引きずるようにして振り出す。

「倒れないように」

頭の中はそれだけだった。

-AD-

「倒れないように」
「倒れないように」

いつもと違う。いつもならすぐに前に倒れてしまうのに、3歩、4歩と歩いてもバランスがとれている。

「倒れないように」

次第に、体が熱くなってくる。ロボット義足でこんなに長い距離を歩くのははじめてのことだった。それにしても、この義足は重い。重すぎる

息が乱れ、汗が吹き出てくる。上半身がぐらつくと、身体を後ろに反らせてバランスを安定させる。

ああ、もう、義足を持ち上げられない。

上がらない足を上げようとしてバランスが大きく崩れる。

ダメだ。限界だ。

「あたっ!」

声にならない声とともに身体が前に倒れると、駆け寄った北村がキャッチ。

私は乱れる息で肩を揺らしながら、トラックに腰を下ろした。

一気に緊張が緩み、全身が疲労に包まれた。

全員が駆け寄り、メジャーで歩行距離を測定する。

「7.3メートル!」

ワアッと声が上がった。

どうやら、やってのけたらしい。

私は安心して、そのまま地面に仰向けになった。

いつも支えてくれるマネジャー北村と

構成/園田菜々

次回は7月14日公開予定です

今までの連載はこちら
 

「乙武義足プロジェクトの挑戦」連載に加筆して単行本化! タイトルは『四肢奮迅』、2019年11月1日発売です!