2018年7月19日、悲劇は起きた

悲劇が起こったのは、昨年の7月19日。「デニス・テンが暴漢にナイフで襲われ、重傷を負った」という情報がSNSで世界をかけめぐった。私もあの日は、たまたまスケオタ友達と夕食中で、ショックを受けながら「まさかそんなこと」と信じられず、世界中のスケートファンと同じように、必死で友人とネットで情報を追い続けた。

「なぜテンくんがそんな事件にまきこまれるの?」
「絶対こんなことでテンくんが亡くなるわけがない」

多くのファンが混乱する中、「太ももの大きな血管を損傷し、3リットルもの血液を失った」「レストランで食事後、駐車していた自分の車に向かったところ、車のミラーを盗もうとしていた2人組の男と鉢合わせして襲われた」「倒れていたところを発見されるまで時間がかかった」など、次から次へと悲劇と不運な情報が流れる。みなのSNSでの悲鳴のような祈りもむなしく、ほどなく病院で亡くなったと発表された。6月13日に25歳の誕生日を迎えたばかりだった。

デニス・テンさんのことは、好感を持って応援していたレベルの私でさえも、その時の虚無感と悲嘆ははげしかった。いわんや家族や友人、彼のファンの方たちの悲しみは想像もできない。死亡の報を受けて、世界中のスケーターや関係者から、続々と混乱と悲しみに満ちたメッセージが次々と発表された。

浅田真央さんはインスタで「なぜ、どうして、信じられません、信じたくありません。大切な仲間の命が奪われたなんて、辛いです、悲しいです。日本のショーに来てくれたり、カザフスタンのショーに呼んでくれたり、カナダやロシアで一緒に練習やテニスやバーベキューをしたりしました。とても優しくて、面白くて、いつも一生懸命な人でした。心よりご冥福をお祈り致します」と発表した。

高橋大輔さんは直後のインスタでは「デニス…本当言葉が見つからない。誰にでも優しかった人がどうして。まだまだこれからだったのに。信じられない」と自らが撮影したデニスさんの写真と共に、メッセージをアップ。後日公式サイトで「スケートの仲間、生涯の友、親愛なるデニス・テン選手の突然の悲報に接し、 痛恨の極みです。 一緒に戦ったこと、ショーでスケートを楽しんだこと、 彼が主催するカザフスタンのショーに声をかけてくれたこと、 彼との思い出は数えきれません。ご遺族皆様の悲しみをお察し申しあげますとともに 安らかなるご冥福を心からお祈りいたします」と発表する。

また、デニスさんが亡くなる前月、6月9日にカザフスタンで行われたデニスさん主催のアイスショー「Denis Ten and Friends 2018」に出演していた織田信成さんもTwitterで、「先月カザフスタンでのデニスのアイスショー本当に素晴らしかった。デニスもすごく満足してて喜んで、またこのメンバーでしようね!って話してたのに…本当に本当に信じられへんし悲しいし悔しい。。心よりご冥福をお祈り致します」と発表し、ほかにも多くの日本人スケーターがメッセージを発表した。

上部のデニスさんの写真は高橋さんが撮影したもの 高橋大輔さん公式インスタグラムより

彼の葬儀はカザフスタンのアルマトイで市民葬として行われ、その模様はネットで生中継され、世界中のファンが見守った。日本では、彼が亡くなった翌日の午後から東京にあるカザフスタン共和国大使館が献花と記帳の場を設け、全国からスケートファンが続々とかけつけた。

かくいう私もいてもたってもいられず、花束を持って現地に向かった一人だ。献花を行う部屋に入ると、両手を広げたデニスさんの大きな写真が掲げられている。亡くなったことが現実として迫ってきて、改めて悲しくなった。土日を含む4日間、大使館の周りには長蛇の列ができ、献花台が押しつぶされんばかりに、色とりどりの花束が積まれていた。カザフスタンでは葬儀には赤い花を手向けると、この時知った。最後の献花が終わる夜遅くまで、対応し続けてくれた大使館によると、4日でおよそ3千人が訪れたという。