「たとえば、キノコを山で採集して新種を発見した場合、これを論文にすれば成果として形になる。ただ、そこに至るまでのキノコをとりに行っている膨大な時間はどう評価されるのか。そこが重要なのに、支援されていない場合も多い。
そこで、今回のBBOを活用して、みんなで森にキノコをとりに行き、その場で見つけたキノコについて専門家から説明を聞けるとすれば、それに対し対価を払いたいと思う人はいるはず。
研究者がワークショップやサイエンスカフェを企画し、そこへの参加券を販売するというのもあるかもしれませんし、実験現場などふだん立ち入ることができない場所を見学できるだけでも興奮するかもしれない。
この場合、先生の話を聞いたり、なにかを体験したりすること自体が商品であり、印刷物などの形として残る商品にはないこともありえるでしょう」

だから「ブルーバックス・アウトリーチ」
実は今回、ブルーバックス編集部とタッグを組んだ理由もここにある。
つまり、科学の現場では日々行われていて、付加価値などないと思われているものが、実は一般の科学ファンにとっては喉から手が出るほど欲しいものの場合もある。
そうしたものも商品化できることで、ユーザーには今まで手に入らなかった情報が手に入るし、研究者の先生にとっては支援を受けるチャンスになる。これも大きな特徴だ。
「研究者がなにに一番困っているかと言えば、やや生々しいですが、資金、研究費です。特に基礎科学の分野はその傾向が強い。お話を聞けば、一般の方でも面白い、と感じ、非常に興味をひかれるような分野の研究をされている方でも、資金集めに苦労しているのです。
そうした研究者の方たちを支援することで科学の世界が元気になることは、ビジネスを超えて意義があると考えています。
今回、サービスのネーミングに『アウトリーチ』という言葉を使ったのも、そうした気持ちを込めたものです」
実際、当初は「ブルーバックス・ファンディング」という名称も考えたが、それだと「資金集め」のニュアンスが前面に立ってしまう。
その点、BBOはあくまでアウトリーチ。研究を知ってもらい、それを面白い、と思った人が、それに対し一定の資金を支払うことで、研究者に還元される枠組みだ。
こうして「コンテンツ」を楽しむ、ということを通じての対価のやり取りとなるため、BBOは通常の研究費集めとは、まったく異なる趣きをもつ。
たとえば、通常の研究費は、これだけの論文を書きました、このような開発を行いました、といった「成果」の報告が最終的には求められることが多い。それは資金を受け取る研究者にとって大きなプレッシャーになると同時に、成果を強調しづらい基礎研究のフィールドワークなど調査活動では資金獲得に一層の困難が伴うことになる。極端なことを言えば、論文の不正問題が起きるのも、そうした背景があるかもしれない。
「今回はサイトのトップにも『知る。楽しむ。応援する!』と書きました。BBOは、商品やコンテンツを楽しんでもらうだけではなく、その結果として、研究者を応援するところまでがひとつながりのサービスとなったツールだと考えています。
面白い研究を知ってもらい、それをユーザーに楽しんでもらう。これはコンテンツ産業で長く歴史を築いてきた講談社こそがやるべき仕事ではないでしょうか。そして、その結果として読者、消費者に科学を応援してもらえたら、最高じゃないですか」
5年先、10年先、ノーベル賞とは言わずとも、科学の世界で顕彰された研究者が、「実はあのとき、BBOで多くの人が支援してくれたことで経済的にも助かったし、研究を続ける上で励みになった」と語ってくれる──長尾さんはそんな日が訪れることを確信しているようだ。