なぜ今? 出版社が「クラウドファンディング参入」の深い理由

「BBO」とは何か、開発者は語った!
平原 悟, ブルーバックス編集部 プロフィール

「実は、科学の分野にも同じことが言えます。

たとえば『ブルーバックス』は、科学関連の書籍シリーズの中では比較的メジャーなものを扱っています。このため、一般の目から見るとニッチな分野、たとえば毒蛇だけを研究している方とか、聞いたこともない星の観察を何十年も続けている研究者の話といった、好きな読者はものすごく好きだと思うけど、書籍化しにくい分野は少なくありません。

しかし、出版社として我々は、そうした研究者のみなさんともコンタクトを取っている。これは非常にもったいないのではないでしょうか」

だが、現実問題として書籍という商品として成立させるためには大きなハードルがあるのも事実。過去の実績などから導かれる売り上げ部数の見込みが一定規模に届かないと企画自体を通せない。

「講談社のような規模の大きい出版社はメジャーな市場だけを狙えばいい、という考え方もあるとは思います。ですが、現在は読者の興味が細分化されているのが明らかになっています。ならば、ひとつひとつの規模は小さくても、それを強く求める人がいる企画やサービスは、なにか工夫をこらした形で、合理的な形で届けることができないだろうかと考えました。

では、何を変えるべきか。通常は企画を実現する際、ニッチな題材は、売り上げの予想が立たないので、説得力を持ちません。ならば、先に需要を確定させ、原価とのバランスが取れることが保証できればいいのではないか。その一つの手法として、クラウドファンディングという形にたどり着いたのです」

長尾洋一郎講談社第一事業戦略部事業戦略チームの長尾洋一郎さん

こんな企画を商品化したら買いますか? と先に市場に尋ねて、企画として成立する人数が集まったら、その段階で商品化する。順番を逆にすることで、これまで埋もれていた書籍という単位に届かないニッチなテーマであっても、当初からその販売規模に合わせた資金計画を立てれば、コンテンツ化の可能性が出てくるということだ。

「これは、今まで企画になりにくかったテーマを商品化できるということであり、自らの研究について知ってもらいたい研究者のみなさんにとっても、講談社にとっても大きなメリットなのです」

アイディアさえあればいい

ただし、ここで大きな疑問がわいてくるのではないだろうか。

仮にクラウドファンディングで支援者を募り、希望の金額に到達したとして、果たして研究者や学者の先生たちが、コンテンツを制作することができるのか。

人によっては執筆が得意な人もいるが、必ずしもそうとは限らない。そもそも、みな本業で忙しいのに、商品を作る時間や手間をかけられるのだろうか。

従来のクラウドファンディング業者のポジションは、ものを作りますという人(起案者)がいて、一方で買いたいという人(支援者)もネットでつながって大勢いる。だからクラウドファンディング業者は、こんな面白い企画がありますよという宣伝はするし、代金の決済もしてくれるが、商品自体は起案者が作り、起案者が買い手に届けることで商取引が完了する。

これを専門用語で「エスクロー取引」と言うが、あくまでクラウドファンディング業者は取引の仲介をしているにすぎない。

既存の購買型クラウドファンディングのスキーム既存の購買型クラウドファンディングのスキーム

この場合、研究者に限らず、まだデビューしたばかりのクリエイターやタレントの場合、企画を商品化することが大きなハードルになる。

そのため、既存の購買型クラウドファンディングでは、起案者の大半は、小規模メーカーのような「ものづくり」の経験がある人たちが占めてきた。こうした人たちは、すでにものづくりのノウハウを持っており、主に初期開発のための資金調達を目的としてクラウドファンディングを利用している。

したがって、「個人では商品化できないが、アイディアは持っている」という人が利用するのは敷居が高いのが現実なのだ。

そこで今回のBBOは、商品の製造から配送、ディストリビューションまで講談社が責任を持つ。だから、忙しい研究者やコンテンツ作りに慣れていない人でも、アイディアが面白ければ、企画を実現できる。これも既存のクラウドファンディングとの大きな違いだと言っていいだろう。

「言い換えれば、BBOはアイディアファーストと言っていいでしょう。

商品化できるレベルかどうかは疑問もあるが、面白いと感じますか? という問いかけからはじまるからです。そのアイディアにどれだけの価値があるのか、わかった段階で商品化するから、事前に完成形にする必要がありません。その意味で起案者にとってきわめて優しい仕組みです。

一方、講談社にとっても、どこに宝が埋まっているのかを知るためのツール、フレームワークにもなる。その意味では起案者、講談社、両方にとって夢のあるフレームワークというわけです」

しかも、ここまで仕組みをわかりやすくするため、コンテンツといういい方をしてきたかが、BBOが提供する「商材」は、書籍やムックに限るわけではないという。

電子書籍の場合もあるだろうし、内容によってはPDF一枚でも、支援者が納得しているなら商品として成り立つことになる。

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