「弁護人はなぜ犯罪者を守るのか」という批判に対する私の回答

刑事弁護人 亀石倫子はこう考える
亀石 倫子 プロフィール
 

強制処分か任意処分か

ネット検索を続けると、ジョーンズ判決に対する日本の刑事訴訟法学者の評釈が8件出てきた。すぐに取り寄せて読んだが、日本でGPSが捜査に使われているかどうかについてはわからなかった。「GPS捜査は、どのような法的性質をもつのか」「令状が必要なのか、必要ではないのか」という点については、学者の意見が分かれていた。

捜査の法的性質は、大きく二つに分かれる。一つは強制処分(強制捜査)だ。強制処分とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産などに制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を指す。刑事訴訟法第197条但書には「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」と書かれている。強制処分は法律に規定されており(強制処分法定主義)、かつ原則として裁判所の発付する令状がなければ行うことができない(令状主義)。たとえば、逮捕するには逮捕状が必要となり、家宅捜索をするには捜索差押令状が必要となる。

これに対し、任意処分(任意捜査)は強制処分を除くすべての捜査を指す。この場合、個人の重要な権利、利益を侵害するとまでは言えないため、裁判所の令状を取る必要はない。よく知られた任意処分に「尾行」「張り込み」がある。尾行や張り込みは、一般に、プライバシーを侵害する程度が高いとは考えられておらず、裁判所の令状なしに行うことができる。

強制捜査は、任意捜査では目的を達することができない場合に、はじめて正当化される。犯罪捜査規範第99条でも「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行わなければならない」と規定されている。「任意捜査の原則」である。

はたしてGPS捜査は、令状が必要な強制処分なのか、それとも任意処分なのか。

強制処分だとしたら、どの令状を取る必要があるのか。

亀石は、この点について知りたかった。

さらに調べると、新聞記事がヒットした。2013年8月18日付の朝日新聞。記事には、福岡地裁で公判が開かれている覚せい剤取締法違反事件で、捜査の段階で、捜査機関によって令状なく被疑者の車にGPS端末が取りつけられた事実を弁護人が問題にしていると書かれていた。国内でGPS捜査が問題にされた事件を扱った記事はこれ以上見つからなかった。

ジョーンズ判決と福岡地裁の事件を知った亀石は、GPS捜査は日本でも行われていて、それを令状なしで行うのは問題があると直感した。黒田の言っていることが本当だとしたら、かなり大きな問題になる。刑事弁護人としての勘だった。

続いて、全国の刑事弁護人が加入するウェブサイト「刑事弁護フォーラム」を開いた。サイト内のフォーラムでは、全国の刑事事件や裁判に関する情報交換や、論点についての議論が活発に行われている。
〈福岡地裁の覚せい剤取締法違反事件を担当されている弁護人がどなたか知りませんか?〉

すると、かつて大阪パブリックに所属し、のちにGPS弁護団に合流する我妻路人弁護士から連絡が返ってきた。
〈僕、知ってますよ〉

担当は、福岡の著名な刑事弁護人である上田國廣だという。亀石は、すぐに上田に連絡を取った。メールには、こう書いた。
〈上田先生は覚せい剤取締法違反の事件でGPS捜査について争われていますが、どのような捜査が行われたのでしょうか。また、先生はGPS捜査に関するどのような証拠を入手され、どのような主張をされているのか教えていただけませんでしょうか〉

亀石の問いかけに、上田はさまざまな情報を提供してくれた。警察官の証人尋問調書では、GPSを捜査に使用する警察の言い分が理解できた。さらに大きな意味を持つのは、警察がGPS機器をレンタルした警備会社から、上田が裁判所に刑事訴訟法第279条の公務所等照会手続を申し立てて取り寄せた「位置情報の履歴」だった。今後進めていくべき手続きのヒントとなる情報が得られたのは、亀石にとって大きな収穫だった。

ただ、福岡の事件では、GPS捜査によって直接得られた証拠が、裁判の証拠として請求されていなかった。それ以外の証拠で有罪を立証することができるケースだったためだ。実際の判決では「GPSの取りつけや尾行捜査と、本件職務質問との間に関連性はない」とされ、令状のないGPS捜査の適法性は判断されなかったのである。

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