地下鉄「無人運転」が、フランス人にできて日本人にできなかった理由

「文化とエスプリ」のおかげ?
川辺 謙一 プロフィール

そこで、パリの「メトロ」を運営するパリ市交通公団(RATP)は、14号線で初めて無人運転を実施するにあたり、一般市民に対して熱心に広報活動を行なった。

無人運転の技術はすでに確立されたものであり、同じフランス国内のリールやリヨンの地下鉄で導入実績があること。自動運転はヒューマンエラーを回避できるので、むしろ手動運転よりも安全性が高いこと。車内に非常用ボタンやインターホンを設け、非常時には指令室から避難誘導できるようにしたこと。

さらには、原則として駅間で電車を止めないこと。駅の照明を明るくしたり、電車の窓を大きくしたり、ホームドアをガラス張りにして、開放感や安心感を高めたこと――などなど。それらを広くアピールし、市民との議論を重ね、社会的コンセンサスを得たのだ。

パリ・メトロ14号線ホーム(筆者撮影)

14号線の開業当初は、運転士を廃止する代わりに半数の列車に巡回員を乗務させ、乗客の不安を和らげる工夫もした。完全な無人運転になってからは、フランスでたびたび起こる公共交通のストにも影響されずに電車が走り続ける地下鉄として注目され、パリ市民からの支持が高まった。

 

もちろん、日本でも可能だが…

こうした取り組みには、日本の地下鉄関係者も強い関心を持った。パリでの無人運転の成功を受けて、日本地下鉄協会は2001年に「次世代地下鉄システム研究委員会」を設置し、次世代の地下鉄はどうあるべきかを検討しはじめた。

また、専門家をフランスに派遣して、おもに無人(ドライバレス)運転の可能性について検討し、2002年に報告書をまとめた。日本地下鉄協会は、国内の地下鉄事業者などが加盟する一般社団法人だ。

ところが、この報告書が発表されてから17年経った現在も、日本の地下鉄では無人運転が実現していない。

たとえば福岡市営地下鉄七隈線は、技術的には無人運転を実施できる一歩手前に到達したにもかかわらず、今も乗務員を添乗させて非常時に備えている。

つまり、技術的には無人運転が可能でも、社会的に不安視する声が根強いために、実現できていないのだ。