アゴの頑丈な「120万年前の人類」たちは何を食べていたのか

噛む力が、運命を分けた

寝ていたチーター

チーターはもっとも速く走れる動物だ。走る速さは、時速110キロメートルとかそれ以上とか言われる。

その話を聞いた子供が、目を輝かせて動物園に行った。もちろんお目当ては、チーターが走る姿だ。あのしなやかで無駄のない体を上下に躍動させて、風のように走る。その姿を見たくない子供なんていないだろう。

ところが、その子供は動物園からふてくされて帰ってきた。聞くと、チーターはずっと寝ていたそうだ。走るどころか歩きもしなかったらしい。

まあ、たしかにそういうこともあるかもしれない。チーターのしなやかで無駄のない体は、走るために適応している。しかし、だからといってチーターは、朝から晩まで走っているわけではない。考えてみれば当たり前のことだけれど、子供だから勘ちがいをしたのだろう。

いや、子供だけではないかもしれない。きっと大人も、勘ちがいをしているのだ。体の形から普段の生活の仕方を推測するのって、結構むずかしいことなのだ。

【写真】疾走するチーター
  チーターと言えば疾走する姿を思い浮かべがちだが…… photo by gettyimages

「華奢型猿人」と「頑丈型猿人」

私たちはホモ・サピエンスという種で、種名の前半についているホモというのは属名を表している。ホモ属の中には、ホモ・エレクトゥスやホモ・ネアンデルターレンシスといった複数の種が含まれる。私たちも、ホモ属の1種というわけだ。

ホモ属が現れたのはだいたい240万年前だが、それに先だってアウストラロピテクス属という人類がいた。およそ420万年前から120万年前に生きていた人類だ。一番古い人類の化石は約700万年前のものなので、アウストラロピテクス属は中期の人類といえる。このアウストラロピテクス属は、猿人と呼ばれることもある。

アウストラロピテクス属は大きく2つのグループに分けられる。華奢型猿人と頑丈型猿人だ。とはいえ、頑丈型猿人は、華奢型猿人よりも体が頑丈だったわけではない。すこしは体も大きかったかもしれないが、大した違いではない。頑丈なのは、歯と顎だ。とくに、臼歯が発達していて、食物を効果的にすり潰すことができた。そのうえ、頬骨が横に張り出していて、そこに咬むための下顎の筋肉がしっかりと付着できるようになっていた。

【写真】頑丈型猿人
【写真】華奢型猿人
  頑丈型猿人(上)と華奢型猿人の頭骨 photo by gettyimages

また、頑丈型猿人の頭蓋骨は、ウルトラマンのように上の部分が壁のように突き出している。これは矢状稜(しじょうりょう)といって、顔の横についている側頭筋が付着するスペースだ。矢状稜は私たちにはないが、噛む力の強いゴリラにはある。おそらく頑丈型猿人の噛む力は、華奢型猿人よりも相当強かっただろう。

これだけ噛む力が違えば、頑丈型猿人と華奢型猿人は、まったく違うものを食べていたと考えるのが自然だろう。ところが意外なことに、そうでもなさそうなのだ。

南アフリカに住んでいた頑丈型猿人(アウストラロピテクス・ロブストゥス)と華奢型猿人(アウストラロピテクス・アフリカヌス)の歯の表面を顕微鏡で調べたところ、その摩耗の仕方から、両者は同じようなものを食べていたと考えられた。

さらにこの結果は、安定炭素同位体比を使った研究でも支持された。自然界の安定な炭素には、質量数が12と13の、2種類の同位体がある。生物の体に取り込まれるこの両者の比率は、食物によって変化することが知られている。これらの結果から考えると、華奢型猿人も頑丈型猿人も雑食性で、おもに草原で同じような食物を食べていたらしい。

こんなに噛む力が違うのに、両者とも同じものを食べていたなんて、どういうことだろうか。