# ハラスメント

「#KuToo」運動を「女のわがまま」で片付けてはいけないワケ

これは重要な労働問題である
竹信 三恵子 プロフィール

「社会通念」の危うさ

ところが、先に引用した根本厚労相の答弁は、後半で「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲か、この辺なんだろうと思います」と述べ、政府の介入を避けている。中でも、この答弁が「社会的通念」を判断基準としてしまったことは、きわめて危ない。

「社会的通念」とは、ある意味、多数派の見解のことだ。会社は多数派である顧客の「社会的通念」を忖度し、意思決定の面で少数派の、声が出しにくい女性社員たちに、ヒールの着用を求める。つまり、履く側の女性の苦痛は「社会通念」の結果もたらされたものであって、これに「照らし」ていたのでは少数派は救済されない。

私自身、新聞記者だったころ、取材先の反応を気にして早朝から深夜までパンプスで駆け回り、夜には足の水膨れで歩けなくなり、靴を脱ぎ、裸足になってなんとか会社にたどりついたことさえある。頭痛や意欲の減退にも悩まされ続けた。

平靴で闊歩する同僚男性記者を横目に、「取材力以前に女性には靴というハンディがある」と実感した。「社会通念」による男女間の公正な競争の阻害である。

 

かつての中国では、足の小さい女性が美しいとして締め付ける「纏足」の風習があった。足を小さくされすぎて自力で長く歩くことさえできなくなった女性もいたという。

こうした「社会通念」による女性の苦痛が、企業の強制によって繰り返されることを防ごうとするなら、政府は、「社会通念」に依存する基準から、働き手の苦痛の度合を基準にした労働安全衛生へと、その軸を転換すべきだ。

「ブラック&ホワイト企業」の土壌の中で男女の公正な競争条件と、社会通念に依存しない新しい安全衛生を整備するには、政府の通達など、企業外からの力が欠かせない。

7月3日付「朝日新聞」でも、各業界で、「常識」とされていたヒール・パンプスの見直しが進み始めたことを伝えている。それは「企業外からの力」の有効性を証明するものだ。

こうした動きを支えるため、企業の枠を超えて少数派の声を吸い上げられる労組は不可欠だ。そのためにも、まずは大手労組によるヒール・パンプス規定についての全国調査の実施を、期待したい。