私は1996年に遠距離介護を支援するNPO法人を立ち上げ、20年以上に渡り活動を継続しています。会員の多くは都市部に暮らす子。故郷で暮らす親の介護のみならず、生活全般をどのように支えれば良いのかと悩みを抱えています。
そんな彼らにとっての普遍的な悩みの1つが「親の運転」です。
今年4月、東京池袋で高齢運転者(87歳)が歩行者らをはね、尊い命を奪いました。その後も、高齢者の運転による事故は立て続けに起きています。
これらの報道を見ながら、日本中で、40~60代の子が運転免許証を保持する高齢親に対して、「気をつけるように」と注意を促していることでしょう。池袋の事故のようなことが起きれば、被害者・被害者家族はもちろんのこと、加害者家族も、精神的にも経済的にも、肉体的にも、言葉では表現できないほどのダメージを受けることとなるでしょう。
すでに、親の運転能力に疑問を抱いている子は、「運転をやめるように」と必死の説得を試みているものと推察します。
しかし、この説得は困難を極めるケースが多いのです。
子は知恵を振り絞り、時には怒鳴り、ときには猫なで声を出し、親と向き合いますがめったにうまくいきません。親世代は、子の言葉に耳を傾けない傾向が強いのです。
これからお話しするコウジさん(52歳:仮名、東京在住)も、説得に失敗した1人です。
コウジさんは山形県出身です。コウジさんには妹もいますが、神奈川県内に暮らしており、実家では80代の両親が2人で暮らしています。
コウジさんの両親が暮らす地域は、御多分に漏れず、バス便は少なく、買い物や母親の通院には83歳の父親の運転で出掛けます。
「最初、ヤバいと思ったのは、父が79歳になった頃です。新しい車を買ったからと嬉しそうに電話をしてきたので、久しぶりに帰省したんです」と、コウジさんは言います。