うつ病が「人生の苦悩」から「脳の疾患」に変化したことの意味

うつ病の医療人類学
北中 淳子 プロフィール

さらにそのような自己監視が、現在成人のうつ病のみならず、児童期(発達障害等)老年期(認知症)にも広がる中、この三つのD(developmental disorders, depression, and dementia)をめぐる、いわば「ライフサイクルの(精神)医療化」とでもいうべき事態が展開しつつある。

うつ病の流行と精神疾患の脱スティグマ化がもたらしたこのような新たな「自己のケア」の台頭が、どのような主体を創り出していくのだろうか。サーベイランスには、観察と監視の両方の意味が込められている。

今後、心のサーベイランスが、心の病を抱えた人たちにとってあたたかなまなざし/観察を可能にし、日々過剰なまでの気遣いや心配りをせずとも人々が安心して暮らしていけるような社会を作るための配慮的監視として働くためには、一体何が必要なのだろうか。このことを社会全体で考えることが、現在早急に求められているのかもしれない。

注:本論は拙書『うつの医療人類学』(日本評論社 2014)の一部をまとめ、新たな予防医学のリサーチに基づき発展させたものである。

◆参考文献:
A・R・ホックシールド 2000『管理される心』石川准・室伏亜希訳 世界思想社
ローズ、ニコラス 2014 『生そのものの政治学:二十一世紀の生物医学、権力、主体性』 檜垣立哉他訳 法政大学出版会