ファーウェイ事件とは何だったのか? その既視感とトランプの恐怖心

歴史は繰り返さないが、韻を踏む。
池田 純一 プロフィール

当時はまだソ連崩壊以前の冷戦時代であり、この米欧日の3極体制が、いわゆる「西側」の3極で構成されていたことにも注意が必要だ。つまり、安全保障の問題である限り、その時点での国際情勢を踏まえた地政学的理解が前提にされる。この点は、今日の状況を理解する上でも変わらない。今日でいうところの「プライバシー」の問題は、当時、一国の「通信主権」という問題に結晶化していた。

かように、30年前の、アナログからデジタルへの移行期の技術では、人工衛星の利用をいかに制すかが、経済だけでなく安全保障上も重要だった。そこで起こったのが、HDTV規格競争だった。

PCの普及が始まり、デジタル技術の優位性が喧伝される中で、日本バッシングが起こり――たとえば当時の映画『ライジング・サン』を見ればその様子はわかる――、アメリカ政府による根強い抵抗が始まった。

直接的なバッシングは、レーガン、ブッシュ父の共和党政権で始まったが、それを受けた民主党のクリントン政権において、ゴア副大統領が上院議員時代から提唱していた「情報スーパーハイウェイ構想」の流れが、HDTV規格競争に合流した。そこから、アナログのHDTVに対してデジタルTVが対抗案として出され、それがやがてPC×インターネットに転じた。

あれから30年経った現在、日本のAV産業は(ということはPC産業も)斜陽化し、映像コンテントの主たる視聴舞台は、いまやインターネット上のストリーミングに移りつつある。見事に、映像メディアプラットフォームの主導権は覆されてしまった。

 

冷戦時代のような広域ブロック

では、5Gの場合はどうか?

問題は、アナログHDTVがデジタルTVを経てPC×インターネットへと、産業的なコンテキストを変えられたような代替ルートが、5Gの場合、用意されるのかどうかにある。そうでなければ、単なる停滞にしかならないだろう。

しかも、5Gの場合、本質的には通信インフラが問題なのではなく、その5Gの通信速度の上で実現するAIを援用するアプリケーションの開発こそが主役である。この点で、中国は中国で独自のデジタルエコシステムを配備しつつあるのは注意すべきだろう。一帯一路の方針の下で、中国が様々なインフラ整備の支援を行っている諸国でも5Gベースのアプリは開発される。

今はまだかろうじてインターネットは、初期の開発理念にあった、ネットワークを相互接続し自己増殖できる存在という理解により、オープンなネットワークプラットフォームと一般には受け止められている。

だがそこに再び、主には国境に沿った規格の違いがもたらされるのであれば、あるタイミングで分断が起こり、しかる後に、分断後の規格競争で勝ち残った側が優位に立つ、というシナリオが待っている。

すでに中国の習近平主席は、アメリカがそのつもりならばこちらも、とばかりに、ロシアにおける5Gネットワークの構築に協力する約束をプーチン大統領との間で交わしている。かつての冷戦時代における「西側」と「東側」のような広域ブロックが生み出されようとしている。

もっとも、早くもグローバリゼーションの恩恵を最大限受けて時価総額で世界一の企業にまで上り詰めたAppleが、アメリカ政府に特例措置の対象企業にしてほしい旨、申し出ていたりもする。

つまり、多分に冷戦時代の国際的分断状況を反映していたHDTVのケースとは異なり、5Gの場合は、すでに多くの産業構造が、とりわけITに関わる産業構造が、国境を越えたエコシステムによって成立してしまっている事実がある。その現実に対して、どこまで政治が抵抗できるのか。経済界からの反動も当然出てくることだろう。

このあたりが、歴史は繰り返されるのでなく、韻を踏む、と受け止めたくなるところだ。