ファーウェイ事件とは何だったのか? その既視感とトランプの恐怖心

歴史は繰り返さないが、韻を踏む。
池田 純一 プロフィール

「世界を包む監視網の完成」という想定

実際、トランプ政権が今回、ファーウェイとの取引停止に至った理由の一つは、世界中の5Gネットワークの基幹システムがファーウェイ製品によって構築されてしまうと、仮に、そのシステム内部に中国政府の指示で「セキュリティ・ホール」を仕込まれても対抗手段をとることができないことだった。

イフ(if)の上にイフを重ねた推論だが、パラノイアとはそのようなイフの積み重ねを無限に行うばかりで、どこかで停止することのできない心理のことだ。

もちろん、このような監視への恐怖がパラノイアに至るまでには、それなりの事件が先行していなければならない。30年前のHDTVのときであれば、レーガン政権においてSDI(戦略防衛構想)のように衛星軌道上に「防衛」のための兵器を配備する計画――俗に「スターウォーズ計画」と呼ばれた――が構築されるくらい、人工衛星の利用に対する警戒心は強かった。

 

一方、5Gについては、もはや当たり前過ぎてニュースにもならなくなったハッキングの横行がある。

先日公開されたモラーレポートにもあるように、2016年大統領選においてロシア主導のトローリングによる妨害行為があったというだけでなく、2010年代のアメリカでは、ロシア、中国、北朝鮮といった国々のハッカーたちから度重なるハッキングを受けてきた。少なくとも被害を受けたアメリカ企業ならびに政府ではそう認識されている。

〔PHOTO〕gettyimages

そこに共通に見られるのが、先に述べた「世界を包む監視網の完成」という想定だ。いずれにしても、自分の家の裏庭を荒らされるような感覚が一般に広く共有された点では、30年前も今も変わらない。その不安の感覚が、そうした不安をもたらすような技術開発を牛耳るアジアの企業とその国に向けられる。そのような構図だ。

ここで見過ごすことができないのが、衛星放送にしても5Gのベースとなるインターネットにしても、ともに軍事利用から始まっていたという事実だ。

かつて衛星放送は、世界中で3極(=3箇所)おさえれば十分、という見方がされていた。それで、しばしば米・欧・日で事業を始めれば世界を牛耳れるという話があった。

シリコンバレーのBig4の台頭に押されて最近はすっかり影が薄くなった感があるが、イギリスのメディア王でニューズ・コーポレーションを率いるルパート・マードックは、イギリスで民間衛星放送会社BSkyBを成功させたことで、それをアジアとアメリカでも展開させ、世界を宇宙(そら)から制しようと考えていた。BSkyBに対して日本でJSkyB、アメリカでASkyBを立ち上げようと考えていた。

ちなみにJSkyB構想は、今でも「スカパー」の正式サービス名である「スカイパーフェクTV」の「スカイ」の部分に残っている。設備投資が甚大な衛星放送事業において共倒れを案じた――当時はDirecTVという共通のライバルも存在した――マードックとパーフェクTVが合意に達してできたのがスカイパーフェクTVだった。