「ドラえもん」からはじまった、僕のSF作家人生

瀬名秀明の『人生最高の10冊』
瀬名 秀明

子ども向けこそ手を抜かない

ねじれた町』はジュブナイルSFです。中学生の男の子が引っ越してきた町は、時空間に奇妙な「ねじれ」が存在する町でした。その町には、過去の世界とつながる扉があり、みんな家系や伝統にこだわっている。悪く言えば因習にとらわれた町ですが、主人公はそんな同級生や大人たちを見て、どうやって彼らと共存していくかを考えます。

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そうした「共存」の姿勢は、作者の眉村卓さんらしさでもあります。彼があるインタビューで答えていたのは、どんな作品でも、大人の論理をないがしろにはしなかったということです。子どもだけの世界や価値観を是とするのではなく、大人には大人の事情があって、それを忘れずに描いていたのだと。想像力の素晴らしさに加えて、眉村さん独自のバランス感覚にすごく惹かれます。

 

ダーウィン先生地球航海記』は、のちに進化論の代表的著作『種の起源』に結実したビーグル号の航海を、ダーウィン自らたどる回顧録です。博物学者ダーウィンは5年間にわたって、ガラパゴス諸島などさまざまな地域で生物の観察や地質の研究を行いました。

作家であり、博物学者でもある荒俣宏さんの翻訳も素晴らしい。単に日本語に直すのではなく、随所にダーウィンのこの着眼点が卓越しているとか、自身の視点で解説を加えていく。これは子ども向けの本ですが、まったく手を抜いておらず、ふたりの傑出した博物学者が、時代を超えて魂の交流をしているように思えました。

振り返ると、子どもの頃はドラえもんのようなSFが好きでしたが、歳をとって科学を扱ったノンフィクションなどにも感動するようになりました。年齢に応じて読書の幅は広がり、自分の世界を広げることにもつながったと感じています。(取材・文/若林良)

▼最近読んだ一冊

ナチス政権下を生き抜いた老マジシャンと、両親の離別に思い悩む少年の間に奇跡が生まれていく。「マジックという言葉から私たちが思い浮かべるような、独特の不思議な感覚がうまく物語に反映されていると思いました」

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