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「ドラえもん」からはじまった、僕のSF作家人生

瀬名秀明の『人生最高の10冊』

「ものを書く人間のユートピア」

小さい頃からSFが好きでしたが、その原点はコロコロコミックで連載されていた『ドラえもん』です。『のび太と鉄人兵団』は大長編シリーズの7作目で、ドラえもん史上、最強の敵キャラクターが登場します。

宇宙から高性能のロボットたちで構成された鉄人兵団が攻めてきて、人類を奴隷にしようとする。一方、対峙するのは子どもたち5人だけ。内容もハードで絶望的な状況まで追い込まれる緊張感があります。

 

ラストも印象的です。ドラえもんがのび太のある問いかけに対し、「信じようよ」と答えるシーンがあるんです。私はその後、光栄にも本作をノベライズさせていただいたのですが、この台詞は「わからない」に変えました。

合理的な科学から生み出されたロボットが、何かを信じるという非合理的なことを口にする意味は何なのか。藤子・F・不二雄先生の筆のすべりかもしれませんが、とにかく衝撃的でした。今でも変更が正しかったのか、考え直すことがあります。

まんが道』はF先生と長年コンビを組んでいた藤子不二雄(A)先生の代表作で、ふたりの少年時代から、漫画家として大成するまでを描いた大長編です。手塚治虫に憧れて上京し、トキワ荘に入って石ノ森章太郎や赤塚不二夫など、同じ夢を追う仲間たちと切磋琢磨しながら前に進んでいく。

この作品におけるトキワ荘は「ものを書く人間のユートピア」として魅力的に描かれています。同時に、ものを書く素晴らしさについても存分に伝わってくる。これを読めば、漫画家や小説家を目指さずにはいられないでしょう。

ベストセラー小説の書き方』はタイトルの通り、ベストセラーを書くための方法が実践的に書かれた指南書です。たとえば主人公を最悪の状況まで追いつめるとか、場面を変えるときには必ず1行空けなさいとか。今は当たり前のように思われるかもしれませんが、当時は執筆の上での心のあり方だとか、精神論だけが書かれている本がほとんどで、具体的な技法まで指南してくれる本はなかったのです。

しかし、本作は単なるノウハウ本ではありません。ここで書かれていることはあくまで基本で、本当のエンタメはまた違うと言うのです。まずは基本を身につけて、その上であなただけの面白さを追求しなさい、自分もそのつもりだからと。

実は本作の発表時は、クーンツはベストセラーを出せていなかったのですが、後に本当にブレイクして、世界的な作家になりました。そして彼自身は、その後本作に書かれた小説の書き方からは少し離れて、一作ごとに実験を重ねていきます。本当のエンタメを考え続ける、クーンツの真摯さの表れだと思います。