香港で一体何が起きていたのか? 返還以来最大の「統治危機」の実態

デモだけではない北京との「総力戦」
倉田 徹 プロフィール

四面楚歌の政府

こうした香港内外の反対派の異例の「総動員」の結果が、この6月の劇的な一連の抗争につながった。普段はデモに行かない保守層も加わったことで、民主派のデモは空前の規模にふくれた。

一方、急進的な若者はネットを利用して急速に動員をかけ、立法会を包囲し、突入を試みて警察から激しく反撃を受けて鎮圧されたが、警察の強硬な手法は無数のカメラに記録され、香港で反発を招き、世界の注目を集めた。

穏健派と急進派の行動には接点は少ないが、2014年の「雨傘運動」の際、両派が対立して運動を弱体化させた教訓から、今回は両派も同じ目標に向かう「兄弟」として、互いに邪魔しないことが共通認識となっている。

こうして、平和裡の集会・デモから突撃や占拠まで、あらゆるデモの手法の「総動員」が実現した。

〔PHOTO〕gettyimages

こうした一連のデモに対し、不人気法案を支えてきた親政府派の議員は次の選挙での敗北を恐れて動揺し、G20での習近平国家主席との会談を前にしたトランプ政権からも声が上がった。

それを受けて、6月15日、香港政府は遂に条例の審議停止の表明に追い込まれた。この結果は、単に民主派とその支持層だけではなく、保守層や国際社会も含めた「総力戦」によって導かれたのである。「天安門事件の再来」というような、最悪の衝突はギリギリのところで回避された。

しかし、審議停止でデモが収まることはなく、翌16日には主催者側発表200万人という、香港史上最大規模のデモとなった。

民主派は、林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官の辞職や、警察の暴力への調査の実施などの要求を掲げて、さらに抗議活動を展開しようとしている。中央政府・香港政府は、これ以上要求を呑むことは避けたい。

しかし、米中新冷戦の環境下で、今や国際問題にまで上った香港の諸問題は、保守派にも愛想を尽かされて四面楚歌に陥った現在の政府にとって、あまりにも解決が難しい。

香港は返還以来最大の「統治の危機」を迎えている。

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