香港で一体何が起きていたのか? 返還以来最大の「統治危機」の実態

デモだけではない北京との「総力戦」
倉田 徹 プロフィール

真の脅威は財界人に

今回の問題の焦点は、中国大陸での犯罪容疑者の引き渡しである。換言すれば、中国大陸に行かない者への脅威は、相対的に大きくない。

例えば、2014年の民主化運動「雨傘運動」を指導した戴耀廷香港大学准教授は、自身は大陸に行けないので、引き渡しのリスクは小さいと述べる。

〔PHOTO〕gettyimages

逆説的ながら、リスクは中国と深く関わる「親中派」ほど大きい。例えば、中国ビジネスを行う財界人は、通常は忠実な「親中派」である。しかし、コネクションはリスクと裏腹である。何らかのビジネス上のトラブルを刑事犯罪に問われる可能性を彼らは恐れる。

鍵となるのは賄賂罪の扱いである。今回の改正の中国政府の意図は、習近平主席肝いりの「反腐敗運動」遂行にあると、多くの者が推測する。

「腐敗幹部」が資産や家族を海外に逃避させる行動は、中国で以前から問題視されている。その際の重要な経由地が香港であり、このことは中国当局に問題視されてきた。

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先述の通り、香港政府は経済関連の犯罪を引き渡し対象から除外する修正を行ったが、その際も賄賂罪は除外されなかった。このことも、腐敗問題を裁きたいという北京の意図であろう。

賄賂を裁くとなれば、収賄側の「腐敗幹部」だけでなく、贈賄側にも当然累が及ぶ。そして、多くの中国ビジネスに賄賂はつきものである。

中国経済の発展に伴い、近年大陸では香港財界への遠慮も薄れている。

2015年9月には、香港を代表する大富豪・李嘉誠(り・かせい)が、大陸の不動産事業からの撤退を進めているとして大陸メディアから相次いで攻撃され、李嘉誠は会見で恐怖の思いを述べた。

通常は政府法案を支持する複数の財界人から、本件改正への懸念が出たことは、むしろ自然でもあった。

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