香港で一体何が起きていたのか? 返還以来最大の「統治危機」の実態

デモだけではない北京との「総力戦」
倉田 徹 プロフィール

保守層も懸念を共有

しかし、香港において、こうした反政府派の活動の自由への脅威を、通常は必ずしも皆が大いに問題視するわけではない。経済都市香港では、民主よりも経済を重視する世論も強く、彼らは民主派の警告に対して概して冷笑的である。しかし、今回はそういった層にも懸念が広がった。

例えば、エコノミストやアナリストからは、中国資本の企業の経営難や、人民元の暴落など、中国にとっての「不都合な真実」をレポートした場合、「国家機密の漏洩」に問われる可能性を懸念する声が上がった。

仮に彼らが引き渡し対象にならないまでも、そういう懸念の下で分析を行うならば、どうしても忖度が混じり込む。中立的・客観的情報を提供できなくなれば、香港の金融センターとしての魅力は低下し、あるいは企業が拠点をシンガポールなどに移す動きが進むかもしれない。

また、中国大陸で活動する各種NGOの関係者、特に、中国で圧迫されているキリスト教会を支援する行為は危険になる。今回の改正に対しては、保守派に属するキリスト教団体も反対を表明した。

〔PHOTO〕gettyimages

中国の司法への不信

香港政府はこれらの懸念に対して、香港で罪に問われない罪は引き渡し対象外であることや、香港の裁判所が引き渡し可否を判断する仕組みの存在などを説明し、いずれも杞憂である旨を説いた。また、引き渡し対象にする罪のリストから経済関連の犯罪を除外するなど、部分的修正にも応じた。

しかし、反対者たちは、中国当局がターゲットとした者は、引き渡し可能な別件をでっち上げられて引き渡されるのではないかと懸念する。それに全く根拠がないとも言えない。

2015年、香港で中国の政権を批判する書籍を売っていた「銅鑼湾(どらわん)書店」関係者が次々と失踪し、後に中国大陸で拘束されていることが判明したが、うち一人が問われた「罪」は、10年以上前のひき逃げ事件であった。

大陸から照会があった場合、引き渡しの可否の判断には香港の裁判所の意見が参考とされる。中央政府からの引き渡し要請を、地方である香港の裁判所が審査するのは大きなプレッシャーである。

香港の裁判官3名は匿名でロイターのインタビューを受け、多くの裁判官が不安を感じていると証言した。弁護士団体の中でも親中派とされる香港律師会も、改正を急ぐなとの異例の声明を出した。

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