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香港で一体何が起きていたのか? 返還以来最大の「統治危機」の実態

デモだけではない北京との「総力戦」

香港から中国大陸への刑事事件容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正を巡り、香港で発生した一連の反対運動は世界を震撼させ、6月15日、政府はついに同改正案の審議入りを停止する決定を発表した。

北京が強く支持する法改正の挫折は、ニューヨーク・タイムズでは「習近平指導下の中国最大の政治的敗北」とまで評された。

繰り返される巨大なデモが、政府の譲歩を導いたことは間違いない。しかし恐らく、デモの力だけで改正を止めることはできなかった。

2月の香港政府による改正の提案以後、6月までの間に、改正反対の世論は少しずつ各界に広がり、高まっていた。改正の停止は、民主派に留まらない、いわば香港社会の「総力戦」の結果であった。

それにしても、台湾で発生した殺人事件の容疑者引き渡しという問題が、なぜ世界を巻き込む展開にまで展開したのか。

鍵となったのは、保守的な親北京派までも含む幅広い香港市民に広がった、本件を「他人事でない」とする危機感と、「米中新冷戦」の国際環境であった。

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自由への脅威

2018年2月、台湾旅行中の香港人カップルが口論となり、女性が男に殺害され、男は事件発覚前に女性の遺体を遺棄して香港に逃げ帰った。

容疑者の域外への引き渡し手続きを定めた逃亡犯条例は、「香港以外の中国」には引き渡せないとしており、「台湾は中国の一部」との中国の見解に従う香港政府は、この犯人を台湾に引き渡せない。

香港政府はこの問題の解決を理由に、2019年2月13日、唐突に「逃亡犯条例」の改正を提案した。「香港以外の中国」に引き渡せる制度を設ける改正案は、台湾のみならず、大陸とマカオへも容疑者引き渡しを可能にする。

この改正案を真っ先に、公に問題視したのは民主派であった。香港の民主派は、天安門事件の追悼集会の開催など、仮に大陸で行えば必ず罰せられるような共産党批判の活動を、「一国二制度」の壁に守られ、香港で日常的に実施している。

彼らに何らかの容疑がかけられて、仮に大陸に引き渡されれば、厳罰は逃れがたい。当然、改正実現の暁には、民主派の活動の萎縮は確実である。同様の脅威は、メディアや学術界に多数存在する民主派に近い人々にも及ぶ。