ロボット義足で格段につらくなる

それにしてもロボット義足になり、格段に練習がつらくなった。ついこの間までスタスタ歩けていたのが嘘のようだ。まずは平行棒の間に立つ。身体を後ろに反らし唸り声をあげては、全身の力で持ち上げた義足を少し前に落とす。それで前に進むことは進むが、これを「歩く」という言葉で表現してよいものかどうかは怪しいところだった。

平行棒の次は支えのないところで歩く練習だ。北村が「じゃあ、手を離しますよ」と言って、私から一メートルほど離れる。途端に宇宙にひとり放り出されたような心細さに襲われる。平行棒の間なら「もう少し重心を後ろに寄せてみよう」とか「足をこう振り出してみたらどうだろう」と考える余裕もあったが、支えがなくなると、ただ「倒れないように」しか考えることができなくなった。一歩ごとに蓄積される足の疲労も、これまでとは天と地ほどの違いがあるように感じられた。

少し歩くとバランスがとれなくなり、「あ! あ!」と声を上げてしまう。北村は危険を察知するとサッと私に近寄り、前のめりに崩れ落ちる私の身体をキャッチする。そして何事もなかったかのように「ちょっと休憩」と言い、私のお尻を床に落とす。そんなことの繰り返しだった。

「倒れないように」しか考えることができなくなった

自主トレと称してふたつのことを始めたのもこのころだ。ひとつは、義足を履くまえに北村にやってもらうストレッチ。私の身体がLの字に固まってしまっていることは、以前に書いたとおりだ。ずっと前屈みのままだと義足を履いたときに倒れやすくなってしまうので、身体をIの字に近づけるための自己流ストレッチを日課にしていたのだ。
連日、リビングルームには私の「痛い痛い痛い」という悲痛な声が響いていたが、北村はそれを聞き流して、黙々と私の体を引き延ばす。「冷製マネジャー」というニックネームのある北村は、私の悲鳴を聞くたびにほくそ笑んでいるように見えたのは気のせいだろうか。

もうひとつは、マンションの1階から30階まで階段を登るトレーニング。体幹と短い両足に筋力をつけることが、重たいロボット義足で歩けるようになるための近道だと考えたからだ。終了後にTシャツを絞ると、けっして誇張ではなく汗がジャーっと流れ落ちるほどのハードなトレーニングだったが、中年になりいよいよ膨らみ始めたお腹をへこませる効果も期待して、地道に取り組むこととした。

地道なトレーニング