「夫についてアメリカに行けばいいのに」

まず、研究の生命線である実験マシンの使用時間の情報も回ってこなくなった。さらに、「お前」や「こいつ」という言葉と共に、助教が妻の研究結果や書いた論文を罵倒するパワハラも始まった

またその助教はもちろん、研究室を運営する教授も、卒業後の進路について妻だけには聞かなかった。博士2年目の頃には、妻は助教から「夫についてアメリカに行けばいいのに」と言われたこともあった。つまり、専業主婦として夫について行くことを勧められたのだ。

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しかし妻はここでも諦めず、助教の罵倒に対応しながら国際雑誌へ論文を出版し、その業績が評価され、「学振」と呼ばれる優秀な大学院生に給与や研究費を与える日本学術振興会の特別研究員にも選ばれた。

他の学生は教授の研究費で国際学会に参加させてもらっていたが、妻はその声もかからない中、学振から得た自らの研究費で国際学会にも参加し、博士論文を完成させ、そして見事に博士号を取得した。

博士号を取得したものの、女性として研究業界に未来を見出せなかった妻は、卒業後に研究者とはまったくことなるキャリアを選んだ。

理不尽なハラスメントとの戦いを終え、新たな道を歩む妻のもとにある日、送別会の連絡メールがきた。卒業から4カ月後のことだった。送別会が開かれていないことを知った教授が、急遽開いたのだ。

その場では後輩達が「先輩は自分の頭で考えて行動できてすごい」と言ってくれたが、それを受けて例の助教は、「皆こいつが考えてるって言うけど、こんなん全然だから」と言い放った。