妻は質問に「はい」と答えたが、それに対して「左様ございますか」と少し気まずそうに返事をしただけとのことで、Dr.の中でも医者かどうかの確認でもなかった。

また、少なくとも妻と同様に博士号を持つ私は、博士取得後10年以上に渡り様々な国の空港でチェックインを経験しているが、日本も含め、同様の質問をされたことは一度もないので、マニュアル的に聞かないといけない項目であったとも考えられない。

考えられるのは入力情報が正しいか確かめるという意味、つまり、子供と2人で飛行機に乗り込もうとする女性を見て、Dr.の表示が不自然に思え質問せざるを得なかったということだ。

考えすぎと感じる人もいるだろうが、博士号取得者に限らず、「女性である」、さらに「結婚している」「子供がいる」という背景だけで、男性同様のキャリアを積んでいるはずがないと決めつけられた経験のある日本の女性は少なくないのではないかと思う。

それに対し声を上げる女性に対して日本の社会の取る対応は多くの場合、「考えすぎ」「勘違い」などの「より鈍感であれ」という圧力である。

このようなジェンダーバイアスによる不均衡を頻繁に経験している妻にとって今回の出来事は「またか」と感じるものであったが、妻が日本のジェンダーバイアスに苦しめられてきたのは、博士号を取った後だけでなく、取る過程においてもであった。そしてそれは、「地獄」と呼ぶにふさわしいほどのものだった。

きっかけは「妊娠」だった

妻が博士を取得した日本の大学では、学部の4年生から教授や准教授が運営する研究室に所属する。妻は子供の頃から興味を持っていたテーマを扱う研究室を選び、研究者を目指して研究生活をスタートさせた。

私は当時、同じ学科の博士課程の学生だったが、学部生とは思えない妻のハイレベルな研究発表に強い衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えている。大学院に進学した妻と私は結婚し、お互いに刺激し合いながら研究生活を送っていた。

しかしその後、第一子を妊娠してから、妻の周辺で変化が起こり始めた