今後の日本で「賃金が際限なく下がる」と考えられるこれだけの理由

雇用制度改革が暗示する未来
加谷 珪一 プロフィール

パワハラ防止法があぶり出す日本企業の経営実態

この状況にダメ押し的な効果をもたらすのが今国会で成立したパワハラ防止法である。これまでパワハラには明確な定義がなかったが、関連法の整備によって何がパワハラで何がパワハラではないのかハッキリすることになった。詳細な判断基準については現在、検討中だが、同僚の目の前で叱責する、大量の仕事を押しつける、仕事を与えない、といった行為は明確にパワハラと認定されることになる

日本企業においては、パワハラと無制限の残業は事実上セットになっていた。生産性の低さを滅私奉公と暴力的な社風でカバーするという図式である。この両方が法律で明確に禁止されるので、低付加価値な企業は息の根を止められてしまうだろう。

日本の場合、企業は自由に社員を解雇することができない。諸外国において日本のようなパワハラ問題が存在しないのは、企業がいつでも社員を解雇できるからである。日本では、能力のない社員も含めて、全員を丁寧に扱い、かつ短時間で仕事を切り上げる必要がある。これからの時代における日本の経営者の負担は計り知れない。

 

強制転勤の禁止

パワハラ防止法と関連するが、一連の法改正によって、強制的な転勤を社員に命じるのも困難になってくるだろう。多くの日本企業では、辞令があれば、どこにでも転勤するというのが当たり前だった。しかし、近年になって転勤を拒否する社員が増えており、企業の中には、強制的な転勤を抑制するところも出てきている。

日本の転勤制度は、やはり終身雇用制度と密接に関わっている。企業のビジネスは時代によって変化するので、業務を行う場所も変化する。諸外国の企業であれば、新規事業を行う場合には、新しい場所で社員を採用し、余剰となった人材は解雇することが多い。日本ではそれができないので、雇用を保障する代わりに、転勤を受け入れるという暗黙の了解が出来上がっていた。

化学メーカーのカネカが、育休を取得した社員に関西への転勤を命じたことが明らかになり、大きな批判を浴びているが、パワハラ防止法が施行された後は、強制的な転勤もパワハラに認定される可能性があり、企業は慎重にならざるをえないだろう。だが、終身雇用を保証した状況で、転勤も強制できないとなると、企業はさらに手枷足枷をはめられることになる。