グレートジャーニーの探検家が血肉にした「本で冒険する」ということ

関野吉晴さんの「人生最高の10冊」
関野 吉晴

極限状態でのリーダーシップ

エンデュアランス号大漂流』は探検史上に残る、劇的な生還劇のドキュメントです。20世紀初頭、イギリスの探検隊が南極大陸横断に挑戦しました。しかし、途中で船が沈み、28人が南極の真っただ中に取り残されてしまいます。

航海するエンデュアランス号

想像を絶する寒さと食糧不足の中、彼らは2年間を耐え抜き、最後には全員の生還に成功しました。それに大きく影響したのは、隊長であるシャクルトンのリーダーシップの強さでした。彼はメンバーの不安を和らげることに力を入れ、不満をもつ者がいないように入念に調整したんです。また隊の構成についても十分に配慮していて、気象学者や船医など、各分野の優秀な人が揃えられていました。シャクルトンは南極点に到達した先人のアムンゼンやスコットを見ていて、彼らの良い点や悪い点をしっかりと学んで生かしたんですね。リーダーや組織のあり方を考える本としても、十分に唸らされます。

 

叛アメリカ史』は、数々の冒険小説で知られる船戸与一さんが、小説家デビュー以前に別名義で発表したルポルタージュです。支配者の歴史である正史に対して、「叛史」は先住民や黒人、日系アメリカ人など、アメリカにおける立場の弱い人たちから見た歴史ですね。ただ、弱者に寄り添うというよりも、「正史が設定した座標軸そのものをぶち壊す」ことが最初に宣言され、それだけに文章も、途方もないパワーにあふれています。船戸さんは小説でも「叛史」に立脚した作品が多く、その原点として本作があったと感じます。

告白録』は思想家ルソーの自伝で、私が人間のあり方を考える上でも大きな礎となった一冊です。ルソーの語りは非常に正直で、例えば自分の特異な性癖についても、隠さずに語っています。

さまざまなエピソードが登場しますが、特に印象に残っているのは、ひとつの物事に夢中になるとそれ以外のことがどうでもよくなるという、ルソー自身の性格の分析です。私にも当てはまることだったのですが、何かひとつのことに熱中することは、今の日本では難しいのではないでしょうか。

多くの組織では、短い期間で成果を出すことが求められ、若いうちに、確実に役に立つことを満遍なくやったほうがいいと言われます。でも、本当に面白いものは何かに夢中になった先にしか生まれませんし、一度は夢中になることを経験しないといけないんです。私にとっては、それが冒険でした。ルソーという先人の言葉から、若い読者が何か気づきを得てくれればと思います。(取材・文/若林良)

▼最近読んだ一冊

「自爆テロと言えば中東のイメージがありますが、本作はアフリカに着目しています。ソマリアやケニアなどさまざまな国を歩いて、テロの実態を解明していく。実地調査を重ねたからこそ見えるものの大きさがあります」