「えー」「あのー」がない、デリバリーのみごとさ

こうした企業のトップともなればスピーチライターもついていることでしょうが、原稿も必ず自分で細かく手に入れているでしょうし、なにより構成に時間をかけているはずです。

冒頭で豊田氏は、会場で泣いていた赤ちゃんがいたようで、
「赤ちゃんたち、そして卒業生の皆さま」
と、とっさのアドリブを冒頭から入れています。
なにか不測の事態が起こってもそれを自分のスピーチの一部にしてしまうこなれた感じは、さすがです。

またデリバリー(話し方)も立派です。
ぜひ気づいていただきたいのが、豊田氏が一度も「えー」とか「あー」といった言葉をはさまずに話していることです。

こういう「えーっと」「えー、うー」といった余計な言葉を、英語ではfiller words(フィラーワード)と呼びます。

このフィラーワードは、アメリカ人だろうが、日本人だろうが、どんな言語の人間だろうが関係なく、人前で話す時にはついつい出るものです。

私が所属しているパブリックスピーチの団体「トースト・マスターズ」では、こうしたフィラーワードを数える係がいて、スピーチする時に数をカウントしていきます。それで初めてフィラーワードを口にしている自分に気づけるのです。

また間の取り方も絶妙です。

笑いや拍手が起きた時、それをたっぷり聴衆に味わわせるように間を取っています。こうした間の余裕があると、話し手はその場をコントロールしているように映りますよね。
スピーチの天才といわれたクリントン元大統領やオバマ元大統領も、こうした間の取り方が抜群にうまかったのです。

私自身はスピーチ大会のコンテストに挑む時には、録画をして、ダメなところを何度も練り直して、200回ほどデリバリーの練習をします。

あきらかに豊田氏は、ご自分の話しているところをビデオに録画して、それを見て訂正するという訓練をされているはずです。
きっとスピーキングのコーチにもついていらっしゃるのでしょう。

トップの人間なのにそこまで努力するなんて! というよりも、そこまで努力されているからこそ、アメリカ人の若者という、自社の社員でもない聴衆、同じ年代でもなく、趣味も違うはずの相手を、これだけ共感させ、笑わせ、そして心を掴むことができているわけです。

反対にいえば、日本では政治家といえども、自分のスピーチを録画して、話し方を練習しているとは思えない方が多いのは残念なかぎりです。

もし豊田氏のように語れるトップが20人もいたら、日本のビジネスも大きく変わるのではないでしょうか。

スピーチもプレゼンも本来、決して退屈なものではありません。
聞き手に笑いや気づきを与えてくれる情報のエンターテイメントなのです。

日本人は英語が下手だから、文化が違うから、アメリカ人の聴衆にウケないなんていえないことが、この豊田氏のスピーチでおわかりでしょう。

スピーチ/プレゼンの秘訣さえ学べば、あなたも必ず聞き手を動かし、共感させることができるはずです。
ぜひその力を手にいれてみて下さい。

構成/黒部エリ

7月上旬に発売になる本書ではスピーチのポイントを具体例を出して伝えている