ワンビッグメッセージが明解
なによりもすばらしいのは、スピーチで伝えたいたったひとつの大事なメッセージ=「ワンビッグメッセージ」がクリアであることです。
「Find your own donut(4字)」
日本語訳にすると、
「自分だけのドーナツを見つけよう(15字)」
これは「喜びをもたらすものを自分で見つけよう」というメッセージを、イメージしやすく、身近な「ドーナツ」に喩えるということで強烈に焼き付けています。
ワンビッグメッセージを焼き付けるための戦略的手法には、4つのAというのがあります。
Analogy(喩え)
Anecdote(ストーリー)
Acronym (略語。4つのAのような頭文字をとったりして覚えやすくすること), Activity(何か聞き手に行動をさせることでメッセージを焼き付ける)
この場合、ドーナツはAnalogy、すなわち喩えになります。
そしてスピーチの前半では、「ドーナツ」でワンビッグメッセージを焼き付け、その後、「卒業後に成功している皆さんは、喜びをもたらす仕事に没頭できているだろうか」と、ワンビッグメッセージが一貫して伝えられています。
クロージングも「ドーナツ」が再度登場して、印象深い締めくくりになっています。
「では早送りして、皆さんが成功して、本当に大好きなことをしているとしましょう。CEOからCEOへのアドバイスをさせてください。
しくじらないで。当たり前と思わないで。正しいことをやりましょう。歳をとっても新しいことに挑戦して下さい」
ここでは卒業生たちに、すでに成功してCEOになっている未來の姿を想像させる夢見型シナリオを用意して、若者たちの志気を盛りあげます。
「皆さんの時代が、美しいハーモニーと、大いなる成功と、たくさんのドーナツで満たされますように!」
最後に「ドーナツ」で締めるところが、またうまい。
「ドーナツ」という言葉が、ワンビッグメッセージを伝えるツールとして、あたかも横串で全部を刺して、つながっている感じに仕立てています。
このスピーチを聞いた卒業生が、友達に話したとしましょう。
「トヨタの社長のスピーチが面白かったんだ」
「へえ、どんな?」
「自分だけのドーナツを見つけよう、というスピーチなんだよ」
「ドーナツ? どういう意味?」
「喜びをもたらすものってことだよ」
と他人にも説明できるほど、メッセージが明確であったはずです。
他人に話したくなるほど、メッセージが明確であれば大成功。
そしてその「ドーナツ」が意味するものは、卒業生たちの心にずっと残るのではないでしょうか。