トヨタ社長のスピーチは、なぜアメリカ人に「大絶賛」されたのか

ポイントは「ワンビッグメッセージ」
リップシャッツ 信元夏代 プロフィール

ワンビッグメッセージが明解

なによりもすばらしいのは、スピーチで伝えたいたったひとつの大事なメッセージ=「ワンビッグメッセージ」がクリアであることです。

「Find your own donut(4字)」
日本語訳にすると、
「自分だけのドーナツを見つけよう(15字)」

これは「喜びをもたらすものを自分で見つけよう」というメッセージを、イメージしやすく、身近な「ドーナツ」に喩えるということで強烈に焼き付けています。

ワンビッグメッセージを焼き付けるための戦略的手法には、4つのAというのがあります。

Analogy(喩え)
Anecdote(ストーリー)
Acronym (略語。4つのAのような頭文字をとったりして覚えやすくすること),  Activity(何か聞き手に行動をさせることでメッセージを焼き付ける)

この場合、ドーナツはAnalogy、すなわち喩えになります。

 

そしてスピーチの前半では、「ドーナツ」でワンビッグメッセージを焼き付け、その後、「卒業後に成功している皆さんは、喜びをもたらす仕事に没頭できているだろうか」と、ワンビッグメッセージが一貫して伝えられています。

クロージングも「ドーナツ」が再度登場して、印象深い締めくくりになっています。

「では早送りして、皆さんが成功して、本当に大好きなことをしているとしましょう。CEOからCEOへのアドバイスをさせてください。
しくじらないで。当たり前と思わないで。正しいことをやりましょう。歳をとっても新しいことに挑戦して下さい」

ここでは卒業生たちに、すでに成功してCEOになっている未來の姿を想像させる夢見型シナリオを用意して、若者たちの志気を盛りあげます。

「皆さんの時代が、美しいハーモニーと、大いなる成功と、たくさんのドーナツで満たされますように!」

最後に「ドーナツ」で締めるところが、またうまい。

「ドーナツ」という言葉が、ワンビッグメッセージを伝えるツールとして、あたかも横串で全部を刺して、つながっている感じに仕立てています。

このスピーチを聞いた卒業生が、友達に話したとしましょう。

「トヨタの社長のスピーチが面白かったんだ」
「へえ、どんな?」
「自分だけのドーナツを見つけよう、というスピーチなんだよ」
「ドーナツ? どういう意味?」
「喜びをもたらすものってことだよ」
と他人にも説明できるほど、メッセージが明確であったはずです。

他人に話したくなるほど、メッセージが明確であれば大成功。
そしてその「ドーナツ」が意味するものは、卒業生たちの心にずっと残るのではないでしょうか。

アメリカ人も大好きなドーナツを例に出し、ビジュアルも思い浮かべながら共感できる内容だった Photo by iStock