トヨタ社長のスピーチは、なぜアメリカ人に「大絶賛」されたのか

ポイントは「ワンビッグメッセージ」
リップシャッツ 信元夏代 プロフィール

聞き手視点で、グッと刺さる話に

スピーチの冒頭に出すのが、就活、パーティー、配信動画サイトといったネタであるのも巧みです。
頭からミレニアル世代にとって関心あることをズバッと突いているため、聴衆の心を一気に掴んでいるのです。
これはまさしくブレイクスルーメソッドでいう「聞き手視点」です。

聞き手が関心あること、興味あることを取りあげてこそ、相手に刺さるスピーチとなるのです。
「聞き手視点」についての詳しい解説は、「視点を変えただけで3億円のビジネスを成功させた例」をお伝えしたこちらの記事をご参照下さい。

そしてドーナツのネタふりから、
「みなさんも自分だけのドーナツを見つけて下さい。
皆さん全員が大きな成功を納めると思います」
と、卒業生たちに夢見させるようなシナリオを用意します。

「でもその仕事を楽しめているでしょうか。
皆さんのように才能がある人はある日目覚めて、自分が現状から抜け出せないよう、縛られていることに気づきます」
ここでは反対に、脅すようなコントラストをつけて、聞き手の注意を引きます。

「縛られている」というのに、Golden Handcuffs(金でできた手錠)という表現も言い得て妙ですね。

「住宅ローンと、バブソンを卒業させる必要がある子供が3人」
ここでまた笑いに落として、緊張感をほぐすコントラストを差しはさむのも、うまいものです。
そこから大事なメッセージに導きます。

「皆さんが心よりやりたいことは何か。今こそ、それを見つけ出す時です。若さの特権である時間と自由を使って、皆さんの幸せを見つけて下さい

 

自分だけのストーリーが、聞き手を掴む

また魅力的なのは、自分だけのストーリーがあることです。

「少年の頃、タクシードライバーになりたいと思っていました。
夢は完璧には叶いませんでしたが、きわめて近いことをしています」

タクシードライバーになりたかった少年時代。そして大学時代はドーナツが大好きだったというエピソード。どちらも身近な例で親近感がわくものです。

「ドーナツより大好きなものがあるとしたら、それは車です」
と、ここで車愛を大きく打ち出します。

2017年、2020年の東京オリンピックに向け、日本交通タッグを組み、トヨタのタクシーを市場3番目のシェアを目指すという発表会を行っていた。スピーチにもリンクしているのだろう Photo by Getty Images

スピーチ/プレゼンで何よりも大切なのは、ストーリーです。
全米プロスピーカー協会の殿堂入りをしているパトリシア・フリップは、ストーリーが持つ力について次のように語っています。

「人は、営業プレゼンには抵抗がある。しかし、巧みに語られた良いストーリーには誰も抵抗することができない。そして、下手に語られた壮大なストーリーよりも、たくみに語られた些細なストーリーの方が、はるかに記憶に残る」

スピーチだからといって、なにも大言壮語をふりかざして、むずかしい例を挙げる必要はないのです。むしろ身近なことでかまわないのです。

ここで語られるのはタクシーの運転手になりたかった少年が、バブソン大学でドーナツを食べながら勉強に打ちこみ、トヨタで働き、CEOになった時にリコール問題などで悩みつつも、52歳の時にはマスタードライバーの訓練に挑戦するという車愛に溢れた、彼だけのストーリーです。

ストーリー構成としても車好きの主人公が、困難にもぶつかりつつも、挑戦を恐れないCEOになるという構成で、聴衆が共感しやすいものです。

そしてそのどのシーンも身近に感じられる人物として、生き生きとしています。