トヨタ社長のスピーチは、なぜアメリカ人に「大絶賛」されたのか

ポイントは「ワンビッグメッセージ」
リップシャッツ 信元夏代 プロフィール

「コントラスト」で「ユーモア」を演出する達人!

そして拍手喝采する聴衆にむかって、
まだ人事部からはOKをもらっていないのですが
と落として、笑いを引き出します。「それはそうだよね」という笑いにつなげて、アイスブレイクの役割をしていて、これはかなりの上達者の技です!

「これで就職活動に関する悩みは解決したと思いますので、もっと大事な話をしましょう」
と、シリアスな話に入るのだな、と思いきや……。

「つまり今晩のパーティーでどれだけハジけるかです」

予測していた答えや期待を大きく外すことで、笑いにつなげています。

「さらに重要なのは、私もパーティーに参加できますか?

と尋ねて、笑いをとったあとに、

「ただし夜更かしはできません。明日は『ゲーム・オブ・スローンズ』の最終回だからです」

さらなるユーモアを畳みかけて、聞き手の心をがっちり掴んでいます。

相手は大学を卒業する若者たち。まさに『ゲーム・オブ・スローンズ』のファン世代であり、そしてパーティーではじけることばかり考えているのもお見通しであるわけです。

『Game of Thrones』はエミー賞では3年連続作品賞に輝いている大人気ドラマ。これは2018年のエミー賞でのもの Photo by Getty Images

ここからバブソン大時代に戻り、
「私はバブソンでは、寮と教室と図書館を往復する、一言でいえばつまらない人間でした」
とマジメな学生時代を明かしつつ、
「しかし卒業してニューヨークで働き始めると、夜の帝王になったのです」
ここでもコントラストに聴衆は大爆笑。

「つまらない人間になるのではなくて、楽しみましょう。人生で喜びをもたらすものを自分で見つけることが大切です」

 

ユーモアとギャグはまったく別者

いよいよ本題に入って、心に響くメッセージを伝えます。
「私がバブソン生だった頃、自分で見出した喜びは……」
と期待を盛りあげつつ、
ドーナツです。アメリカのドーナツがこれだけ喜びをもたらしてくれるとは」
と落として、ドッと笑いがわき起こります。

聴衆が期待することとは外すことで、コントラストのユーモアを引き出す。これは上級者のテクニックです。

ギャグとユーモアはどう違うのか、というと、ギャグは笑わせるだけが目的のもの。たとえば「専務といいながら、なにも専務」とか、あるいは流行言葉を入れるような類のことです。
こうしたギャグでは、その後の本題に続かなくなってしまい、スピーチの場合は逆効果となってしまいます。スピーチにギャグを入れようとしないで下さい。

一方ユーモアは、そのスピーチで伝えたいたったひとつの大事なメッセージ=「ワンビッグメッセージ」を印象付けるという目的が前提となっています。
さらに言うとユーモアは、ストーリーの中に「組み込む」ものではなくて、ストーリーから「引き出す」もの。

クスッと笑える箇所は、豊田氏が使っているコントラストのギャップのように必ずどこかに潜んでいるのであり、なにも面白いことを考えて、それを無理やりストーリーに上乗せするのではありません。

欧米でスピーチが達者なリーダーたちが聴衆から笑いを引き出すユーモアと、ギャグの違いがおわかりいただけたでしょうか。