可視光やエックス線などの電磁波は、その「電気的な成分」と「磁気的な成分」が縦横に振動しながら進んでいく。普通はバラバラな向きに振動しているのだが、これが一方向にそろっているもの、一方向にだけ振動しているものを「偏光」という。
身近な例がサングラスだ。釣りをするときサングラスをかけると、水面のギラギラが抑えられて水中がくっきり見える。これは、特定の振動方向の光だけを通す「偏光板」でつくったサングラスが、水面で反射してくる光の振動成分をカットしてしまうからだ。

かに星雲からやってくる硬エックス線の振動が特定の向きに限られている、すなわち、偏光した状態でやってきているならば、それは、かに星雲の中心にある中性子星の性質を解明する大きな手掛かりになる。
地球の周りには「磁場」ができている。その磁石としての性質は、北極をS極、南極をN極とする巨大な棒磁石が地球内部を貫いているのと同じ状態だ。地表で方位磁石が南北を指すのは、この磁場から力を受けているからだ。
かに星雲の中心にある中性子星にも、同じような磁場がある。硬エックス線が振動する向きは、この磁場のでき具合と関係があるので、どのように偏光しているかを観測できれば、そこから中性子星の磁場の具体像を推定できる。
その結果と、他の観測や、コンピュータシミュレーションによる理論的な研究を組み合わせることで、かに星雲の中性子星の詳細が明らかになり、「激しい天体活動」の実態を解明することにつながると期待されている。
それだけではない。この観測方法は、「ブラックホール連星」の研究にも応用できると考えられている。
ブラックホール連星は、自ら輝いている「恒星」とブラックホールとが互いの周りを回転しあっている天体だ。エックス線や硬エックス線の偏光観測により得られた情報を従来の観測結果に加えれば、その姿がより詳しくわかる。
たとえば、ブラックホールが相方の恒星からガスを吸い込んだときに出るエックス線などの偏光を詳しく調べることで、ブラックホールがどのようにガスを吸い込んでいるかがわかるという。さらには、ブラックホールがどれだけ周囲の物質を吸い込んだのか、それが銀河の進化にどのように影響しているのかといった謎の解明につながっていく。