すべての人に絶対知ってほしい「依存症治療」で重要なこれだけのこと

罰を与えても、解決にはならない
原田 隆之 プロフィール

数々の批判

しかし、こうした治療アプローチについて、数々の批判があることは事実である。

たとえば、フジテレビの「バイキング」という番組のなかで、元裁判官で弁護士の清原博さんが、「薬物更生プログラムを続けている限り、その間に薬物の再使用があっても犯罪として処罰しない」ことを提言した。

すると、司会者の坂上忍さんは、大声で「大反対です。僕は」と述べ、「治療してたほうが、ずっと(薬物を)やれちゃうじゃん」「『おかしなこと言ってんじゃねーよ』って言いたい人いますか?」などと激しく批判した。

まず、坂上さんは、治療の厳しさを知らないから、このような発言ができるのだ。薬物依存症の治療は、先に述べたように患者に大きなコミットメントを要求する。

一般的な治療プログラムでは、患者さんの重症度によって、最も重い人で入院または毎日の通院、軽くても週1回の通院を少なくとも2年間は続けることを要求する。そして、毎日の生活スケジュールを立て、あらかじめ決められたとおりに生活し、それを家族や治療スタッフが監督する。

かつてのライフスタイルを改めるために、友達関係を清算したり、引っ越しをしたりしてもらうのもまれなことではない。余計なお金を持ち歩かないように、金銭管理をしているケースもある。

プログラムでは、毎回、薬物を克服するための新しいスキルを学び、宿題が課せられる。宿題の多くは、学んだスキルを実生活のなかで活用してみて、その「効果」を報告するような内容となっている。ランダムな尿検査も実施する。

 

坂上さんの言うように、薬物使い放題などになるはずがない。そもそもそんな心構えの人が、治療に通い続けることなどできるはずがない。それに、われわれは何も薬物再使用を大目に見て、「1回や2回の再使用ならばOK」などと考えているわけではない。治療に通っている以上は、絶対に再使用がないようにすることが、最も重要な目標である。

しかし、そうは言っても、先述のように、薬物依存症とはそんなに軽々と克服できるものではなく、どれだけ真剣に治療にコミットしていても、脳の機能が完全に回復するまでは、何度かの再使用をしてしまうことを織り込んでおかないと、治療が立ち行かなくなってしまう。そこで匙を投げてしまっては、そもそも問題の克服などできないのだ。

したがって、治療に通ってコミットメントを続けている間は、たとえ1度や2度の再使用があったとしても、それを「治療の失敗」「本人の心がけが悪い証拠」と見なすのではなく、「新たな学びの機会」ととらえて、治療の継続とさらなるコミットメントを後押ししていくことが、正しい態度なのである。そうすることが、薬物依存症の克服を確実なものとしてくれる。

繰り返すが、責め立てたり、嘲笑したり、重い罰を与え続けたりしても、薬物依存症には効果がないばかりか、逆効果になるだけである。これは薬物依存症者を甘やかしているのではなく、依存症治療のエビデンスが教えてくれる科学的な事実である。

治療の必要性を強調する人々も、治療に反対し、より重い刑罰を求める人々も、薬物を根絶したいという願いは共通しているはずである。

要は、その手段として、科学的エビデンスに基づいた方法を取るのか、感情的になって懲らしめる方法を取るのかの違いである。そして、間違いなく前者には効果があり、後者は逆効果でしかない。