すべての人に絶対知ってほしい「依存症治療」で重要なこれだけのこと

罰を与えても、解決にはならない
原田 隆之 プロフィール

依存症治療で重要なこと

とはいえ、わが国でも少しずつではあるが、「モラル・モデル」から、「治療」を重視する「医療モデル」「認知行動モデル」に対する理解が深まりつつある。

治療が大事という考え方に対する理解を一歩進めてもらうために、依存症治療において重要ではあるが、あまり語られることのなかった事実について、述べておきたいことがある。

それは、治療の過程において、薬物再使用は付きものだということである。治療を受け始めたらすぐに、まるで魔法のようにキッパリ薬物がやめられるかというと、ことはそう簡単ではない。

 

違法薬物とは違うが、禁煙治療の場合も、禁煙外来で治療を受けていても、完全に禁煙できるまでには、平均で数回程度の再喫煙があると言われている。

ここで重要なことは、治療中に再喫煙や薬物再使用があったとしても、それは治療の失敗を意味するわけではないということである。

かつては、治療者のほうも、それを治療の失敗と見なし、本人にやめる意志がない証拠だとして、責め立てたり、治療を中断したりしていた。

しかし、治療研究のデータを見ると、依存症患者は、治療のなかで何度か再使用をしたとしても、最終的には断薬に至ることができている。

これをどう考えるかというと、治療中の再使用は、治療の失敗ではなく、まだ治療で学んだことが十分に身に付いていなかったためであるということだ。

したがって、そこで治療を中断するのではなく、治療を続け、再使用の原因を分析することなどによって、さらに治療を深めていくことが大切になる。

私は治療中に患者さんが再使用してしまったときに、それを容認することはしないが、かといって責め立てることもせず、次のような言葉をかけることにしている。

依存症の治療というのは、自転車に乗る練習と似ています。自転車の練習中に、もしも道路のくぼみに車輪を取られて転んだとしても、それは練習をやめる理由にはなりません。
大事なことは、また自転車にまたがってペダルを漕ぎ続けることです。そして、今度は道路のくぼみには注意することです。

薬物の再使用をしてしまったとき、その場合の「道路のくぼみ」に当たるのは何だろうか。昔の悪友からの誘いだったり、孤独感だったり、将来への不安だったり、人によってさまざまである。

そうしたときに、薬物依存者は往々にして、薬物を使ってしまう。それらは薬物使用の危険な「引き金」となるものだからである。

こうした引き金を上手に避けることができなかったために、彼らは「転んで」しまったのだとすると、今度はその失敗から学び、次は同じ失敗を繰り返さないようにすることで、薬物の克服へとさらに近づくことができるのだ。