ロシアが展開するハイブリッド戦争の脅威

エストニアから考える新しい戦争の形
廣瀬 陽子 プロフィール

CyCon2019

さて、今年のCyCon2019の話に戻ろう。4日間にわたり、世界47カ国から645名が参加し、合計30のワークショップとセッションで105人が講演し、29の学会発表論文が出された、きわめて濃密な国際会合となった。

まず驚いたのが、参加者の半数以上が軍、防衛関係の省庁、防衛産業など、軍事関係者であったことであった。そもそもCCDCOEがNATOの組織なのであるから、当然といえば当然なのだが、サイバー問題が重要な軍事領域の一角を占めていることを改めて感じさせられた。その他、マイクロソフトをはじめとした、コンピュータや技術関係、サイバーセキュリティ関係の会社、各国政府関係者、学者などが参加していた。

エストニアのケルスティ・カリユライド大統領の開会講演では、サイバー・スペース、サイバー・オペレーションでの国際法の適用についてのエストニアの立場が宣言されるなど、エストニアで本会議が行われることの意義を感じさせるものであった。

開会の講演をおこなうエストニアのケルスティ・カリユライド大統領(筆者撮影)

さまざまな発表や議論がなされたが、サイバー攻撃やフェイクニュース、闇サイトなどの分析ツールがかなり発展してきているなど、対策面での進展があることが発表される一方で、今後も起こりうるさまざまなサイバー攻撃やハッキングの可能性やその影響について、多面的な検討、議論がなされた。国際法を整えつつ、サイバーセキュリティにおいて多面的な協力体制を構築してゆくことの重要性が再確認された。

本会議において、サイバーセキュリティの最大の脅威とみなされていたのはやはりロシアと中国であった。会議参加者の間では、中露両国は、国際法・国際秩序を守らず、これまでも多くの甚大な被害を国際社会に撒き散らしてきた経緯があり、今後ももっとも注視される対象であるという認識が持たれていた。

ロシアのハイブリッド戦争において、サイバー攻撃、フェイクニュースの拡散などはきわめて重要な意味を持つ「戦力」である。サイバーセキュリティ問題にも重点を置きつつ、ロシアのハイブリッド戦争を総合的に考える必要を改めて感じた。

日本にとってのハイブリッド戦争

ハイブリッド戦争は日本にとっても他人事ではない。

安倍内閣は、2018年12月に「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」を策定した。防衛計画の大綱は、日本における安全保障政策の基本指針であり、通常は10年に1度改定されてきた。しかし、2018年の改定は、その前の「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」策定からたった5年でなされたのである。

その主な理由は、第一に北朝鮮が核ミサイルの能力を顕著に増強させたからであり、第二にロシアのクリミア併合以後、世界における戦い方が変わった、つまり、「ハイブリッド戦争」の脅威が高まったからであった。そのため、ミサイル防衛システムの改善、宇宙やサイバーへの対応が重要になり、新大綱では宇宙やサイバー部門の強化が特筆すべきポイントとなっている。

現状で日本がサイバー攻撃に脆弱であることは間違いなさそうだ。英ソフォス(Sophos)と米ファイア・アイ(FireEye)の調査によれば、日本企業はサイバー攻撃の検知能力が12カ国中最低であったという(日経xTECH 2019/04/22  [https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/02040/])。

他方、日本でのサイバー攻撃の数は年々増えており、脅威は増す一方であると言えるだろう。

幸い、日本は島国ということもあり、ロシア周辺国がロシア系住民の多さに悩まされるような現象とも無縁である一方、日本人に欠ける危機感は、日本人のメディアリテラシー能力の低下を助長しているようにも思える。日本人はフェイクニュースに惑わされないと言えるだろうか。欧米でおこなわれているような情報リテラシー教育が日本でも必要ではないだろうか。

今こそ、日本もハイブリッド戦争への意識を高め、諸外国でどのようなことが起きているのか、日本はどのように対抗してゆけるのかを考えるべき時だろう。