アメリカで「大学入試」が大きな議論を呼んでいる理由

ハーバードの差別、著名人の入試不正…
畠山 勝太 プロフィール

数々の教育経済学的研究でSATが教育成果の代理変数として使われている。

なぜかと言えば、SATの結果と大学卒業率(前回の記事(「アメリカの大学生はよく勉強する」は本当か?)で指摘したように、米国では大学入学者の少なくない割合が教育ローンを抱えて退学し、教育ローン破産を引き起こしていることが社会問題となっている)や賃金・失業率などの間にある程度の相関関係が見出されるためである。

しかし、やや技術的な話になるが、特に工夫をせずに回帰分析をかけると、データの観測数が多いところでの当てはまりはよいが、そうではないところでは(厳密には異なるが、予想精度と言い換えると分かりやすいかもしれない)は悪くなる場合がある。

これを大学入試としての学力テストに置き換えると、人数が多い平均点付近では、試験の成績と大学の卒業率の間には明確な関係が見られるかもしれない。

しかし、シカゴ大学のように、受験者の大半が全体ではわずかな割合しか占めない高学力層である場合、共通試験は大学の卒業率をあまりうまく予想できず、大学入試オフィスとしてはあまり必要のない情報なのかもしれない。

ただしこれは、私が実際にシカゴ大学の受験者のデータを見たわけではないので、私の推測の域を出ないSAT逃避の理由の背景である。

いずれにせよ、より多くの受験者を集めるため、第一世代・貧困者対策として、より適切に志願者の実力を見るためといった理由から、大学が共通試験から逃避を始めているのは特筆に値するであろう。

 

「逆境スコア」とは?

これらの問題が契機になったのか、それとも元々導入が考えられていたのか定かではないが、SATは新たに50点を平均値とする100点満点の「逆境スコア(Adversity Score)」を導入することを広報した。

この逆境スコアは31の項目からなる複合指標で、項目は大きく住宅付近の環境と学校並びに学校近辺の環境から構成される。

前者の代表的な項目をいくつか挙げると、地域の中で米国版生活保護を受けている世帯の割合、一人親家庭の割合、非大卒者の割合といったものである。

後者は同じ高校に通う生徒の保護者の中で農業に従事している者の割合、生活保護・非大卒者・貧困世帯の割合といったものである。

この逆境スコアにはいくつか興味深い特徴がある。

一つ目は人種がまったく考慮されていない点である。これは、おそらく前述の一つ目の入試問題が関連していると考えられる。アジア人もそうであるが、特に黒人やヒスパニック、ネイティブアメリカンは人種差別に晒されやすいので、白人と同じ所得や教育水準であっても逆境の中にいる。

しかし、これを考慮してしまうと、一般的に白人よりも学力が高いのに人種差別に直面するアジア人の扱いが難しくなるだけではなく、恐らくアジア人であることが逆境スコアの中でマイナスに働くことが予想される。ハーバード大学の問題が起こった直後にこれを実施するのは政治的に不可能であろう。

二つ目は、逆境スコアを入試プロセスの中で考慮するかしないかは完全に大学側に委ねられている点である。これは逆境スコアの問題点とも関連するので、先にそちらに触れることとする。