皆さん、こんにちは。ニッポン放送のアナウンサー、箱崎みどりです。
普段はラジオ局、ニッポン放送(AM1242、FM93)でアナウンサーとして働いていますが、実は大の「三国志」好き。
いよいよ本日から、東京国立博物館で特別展「三国志」が行われます!(10月1日からは、九州国立博物館で!)「三国志」は、改めて注目を浴びることでしょう。
さて、私が愛する日本の「三国志」の豊かな世界。第6回では、吉川英治の『三国志』も含めた、日中戦争下の「三国志」ブームについて、お話ししていきます。
前回第5回では、曹操を魅力的に描いた「三国志」は、吉川英治『三国志』だけではないとお話ししました。日中戦争下、『三国志演義』を語りなおした再話作品が、大人向けのものだけで5作品も出版されていて、その中には、吉川『三国志』に似た近代的な傾向を持つ作品もあったのです。
いただいたご感想には、「曹操は、失敗も多いが、挫けず逆転を期し勝利する様、先見性や文化性の高さ、人間臭さも面白い。大英雄と言って差し支えない人物」とか、「曹操も魅力的な悪役だけれど、吉川『三国志』で本当に魅力的に格好良く描かれていると思うのは、関羽と孔明だ」など、人物の描き方、捉え方にまつわるものが多く寄せられました。
今回は、なぜ日中戦争下に、交戦中の敵国であった中国の古典小説「三国志」ブームが起こったのかを、詳しく見ていきましょう。
まず、第5回の末尾に掲げた作品リストをおさらいしましょう。
これらがどんな作品なのか、吉川『三国志』、村上『三国志物語』、弓館『三国志』については、評論家・桑原武夫氏が分かりやすくまとめています。
桑原氏は、それぞれの序などから執筆姿勢を引きつつ、長さや反復、定型の繰り返しという『通俗三國志』の長所が失われているとして、村上、弓館、吉川、それぞれの「三国志」を批判しています。
これは、一方で、この3作品が『通俗三國志』から離れた、新しい作品であったことを示す評論でもあるのです。
明治時代の評釈や翻訳、子ども向けの再話は、漢学者と児童文学の書き手によるもので、これらの著述は彼らの仕事の範囲内のもの。『三国志演義』は漢学と児童文学の領域で扱われていたことが分かります。
一方、第3回で、孔明の評伝の作者が、学者から次第に多様化していったことに触れましたが、日中戦争期の大人向けの『三国志演義』再話作者も、多彩な経歴を持っています。
岡本成蹊は英語教師で英文学者、吉川英治は大衆小説家、村上知行は中国在住の中国通、雄山閣の編集者の依頼による書き手たち、弓館芳夫は毎日新聞のスポーツ記者と、書き手の個性は強烈です。
様々な背景や個性を持つ書き手たちが『三国志演義』の再話を行ったため、漢学や児童文学とは一線を画した個性豊かな再話が生まれました。出版社側も、色々な人に、その人ならではの「三国志」を書くように依頼したともいえるでしょう。