上阪:近藤麻理恵さんの本は、初めからミリオンセラーになると思われたんですか?
植木:それは担当編集者が、最初に宣言していましたね。我が社では、限界意識を突破するということを非常に大切にしています。出版不況だから売れなくても仕方がない、8000部が限界とか言いがちなんです。しかしそんなことを言っていたら、その段階で終わりですよね。特に社長は、決して言い訳をしてはいけない。自分が属している業界の状況を言い訳にするくらいならば、他業種で別の仕事に舵を切るのが、社長の役割ですから。
上阪:そういう意識が社員の方々にも浸透していて、ミリオン宣言が出た訳ですか。
植木:社内で毎年年始に「大ボラ吹き大会」というのを開催しているんです。社員全員にその年の、できるだけ大きな目標を発表してもらう。ホラなので大概は実現しません。それでも構わないんです。ただ最近はあまりに大ボラが多いので、必達目標も一つは入れてもらうようにしていますが(笑)。
上阪:それくらい大きな絵を描かないと、やっぱりミリオンセラーは生まれないと。
植木:そうなんです。特にこれからは世界まで視野に入れた、大きな夢を持ってほしい。会社としても海外とのネットワークづくりには、早くから取り組んできました。それが今や一瞬で、世界に情報が広がる時代です。そんな時に日本だけでしか売れない本を作っているのは、どうなんだと。
こんまりさんの本は2015年に全米で150万部以上売れて、Amazonで年間総合2位に入ったんです。それが今年の1月、Netflixで全8話のドキュメンタリーとして190カ国で配信された。すると再び全米でAmazonの総合2位に、メキシコは1ヵ月間1位、ヨーロッパでもトップ10に入って、全世界で売れ出したんです。こんなことは日本の出版業界では初めて。出版不況と言われる現代でも、一方ではこういうことも起きるんです。
上阪:大ボラが実際に世界で受け入れられて現実になった。ホラを実現するには、どうサポートされるんですか?
植木:サポートは……したりしなかったり(笑)。というのも元編集者だったので、社長になったばかりの頃は、取材にも同行していたんですよ。ただ本づくりは、編集者が100人いたら100通りのやり方がある。正解は一つじゃないんです。それぞれの編集者が主体的に、個々の強みや良さが出る方法で作ったほうがいい。それなら編集は任せて、いい本ができたらそれを広めるなど、別の面で手助けしたほうがいいと思ったんです。だから今は企画会議や営業会議にも出ていません。