本物の大金持ちがタワマンに住まない「これだけの理由」

総工費10億円の豪邸、こだわりと愛情
週刊現代 プロフィール

文化財に住むということ

長者丸と同じく、古くからの高級住宅街として知られるエリアが「御殿山」だ。高輪から大通りを一本超えると広がる御殿山はご存知のとおりソニー創業の地で、山手線沿いの「超都心」でありながら閑静な住宅街になっている。

この一角に、常緑樹に囲まれた3階建ての洋館風建築がある。敷地はおよそ80坪、高い外壁で中をうかがうことはできないが、誰が見ても歴史的建造物であることを疑わないであろうたたずまいだ。

国や東京都の保有地かと思い、玄関を見ると表札が掲げられている。人が住んでいるのだ。

住人は、物流関係企業の創業家で、現在社長を務める三浦敏さん(仮名・57歳)。この豪邸の正体は何なのか、三浦さんの妻が教えてくれた。

「この建物は1938年に建てられたもので、外装はほとんど当時のまま残しています。そして'53年から'57年までの3年あまり住んでいたのが、小説家の吉川英治さんです。

吉川さんが退去した後、主人の両親が縁あって、ここを引き継いだ。つまり夫の実家で、私は30年前結婚を機にここへ引っ越してきたんです」

 

80年以上のあいだ御殿山に建つ旧吉川英治邸は、国の登録有形文化財指定を受けている。まさに選ばれし者だけが住むことを許される邸宅だが、歴史的な建物ならではの悩みもある。

「文化財なので、建物に関しては固定資産税の優遇を受けていますが、土地には適用されません。額は私も正確に把握していませんが、毎年とにかく信じられない額の固定資産税を納めています。

外観は私もとても気に入っていますが、住宅としては使い勝手が悪く、両親の部屋以外はほとんどリフォームし、玄関と洋風の部屋は私たちで後付けしました。防寒、防風対策もまったくなかったので、冬場は厳しかったですね。

30年前に私が越してきたころ、このあたりは大きな家ばかりでした。ところが相続して大きな土地を売りに出してもまったく買い手がつかないようで、細かく分譲されて小さな家が増えていきました。

住民もかなり入れ替わっていて、近所づきあいも挨拶程度のものでしょうか。引っ越すことは考えていませんが、この家は文化財なので、そう簡単に切り売りできません」

人の住む家は、主のこだわりや悩みをそのまま映し出す。小さなマンションでも、都心の超豪邸でも、それは一緒なのかもしれない。

「週刊現代」2019年6月22日・29日合併号より