高齢ドライバー交通事故「加害者と家族」が明かす、苦悩と後悔の日々

起きてからでは、取り返しがつかない
週刊現代 プロフィール

加害者の死後も苦しむ家族

寛子さんは、警察からかかってきた電話で、有平さんが事故を起こしたことを知った。

裁判が始まると、有平さんは拘置所に勾留された。事故前、有平さんと最後に会話した寛子さんは、証人尋問にも出廷している。

「被害者のお父様から『あなたの子供がこのような事故の被害者になったときのことは考えたことがあるか』と質問されたときは、表情を直視することができず、ただただ頭を下げるしかありませんでした。あのときは頭が真っ白になってしまいました」

有平さんには刑事裁判で執行猶予が付き、その後の賠償も、保険でまかなうことができた。

だが、家に戻ってきた有平さんと、寛子さん夫婦に注がれる近所からの目は冷たかった。

「古くからおつきあいのあるスーパーに買い物に行っても、他のお客さんがこちらをチラチラと見ているのがわかるんです。こちらから挨拶をしても、サッと目をそらされる。

ウチの家族は、お義父さんの前の代から地域に住んでいて、私たちの子供もあの家で育てましたが、世界が狭いぶん、一度白い目で見られたら、もう元に戻れないのだと痛感しました」

事故後、家に閉じこもるようになった有平さんは次第にふさぎ込むようになり、気がつけば、いつも世話をしていた寛子さんの顔すらわからない状態になった。結局、そのまま寝たきりになった有平さんは、事故から2年後の昨年、死去した。

 

居たたまれなくなった寛子さん夫婦は、住み慣れた町を離れ、広島県へと引っ越す。いまは近所に知り合いもいない場所で、ひっそりと暮らしている。

寛子さんは、義父を止められなかった自分を責め続けて精神を病み、毎週1回の通院が欠かせなくなっている。黒々とした髪が自慢だった夫は、40代でも事故後に髪が真っ白になった。

「あの事故で、すべてを失いました。とても辛い経験でした。でも、私たちのせいでお子さんを失った被害者のご家族のお気持ちを考えたら、そんなことは口が裂けても言えません。

やはり、一番心苦しいのは、被害者のご家族に直接お詫びしたくても、お詫びできないことです。先方の『人殺しの家族には会いたくない』というご意向は固く、いまだお目にかかれていません。

先方の弁護士さんには、命日のたびにお手紙をお送りしていますが、毎回封も切られぬまま送り返されてきます。せめて、お墓の場所だけでもわかればありがたいのですが……。いまはただ、時おり現場へ行き、手を合わせることしかできません」

寛子さん夫婦は今日も後悔の日々を送っている。

「私たちの立場で言えるのは、事故が起きてからでは本当に取り返しがつかないということです。

いつ、自分の家族が加害者の立場になるかもわからない。高齢で運転される方は常に、そのことを忘れてはいけませんし、本人に自覚がなければ、家族はたとえケンカをしてでも、免許を取り上げるべきだと思います」

たった一度の事故が、多くの人の人生を狂わせる。加害者家族の経験から考えるべきことは、少なくないはずだ。

「週刊現代」2019年6月22日・29日合併号より