『ホモ・デウス』は現代人に生の意味を与える「宗教書」かもしれない

ベストセラー「深く知る」ための読み方
藤田 直哉 プロフィール

ポストモダン思想が隆盛していたときには、「進歩」や「意味」は攻撃のターゲットになった。しかし、現在では、人は「進歩」についての「意味」や「物語」をまた欲するようになったらしい。

かつては宗教が、そして後に哲学が、後にSFが「これは荒唐無稽だ」と明示しながら皮肉にも提供していたその物語を、今度は歴史学者が人文書として大真面目に提示しているのである。この書物が受け入れられることそのものに、時代の変化を感じる。

人々はまたポストモダン思想が攻撃の対象にしてきた「大きな物語」を求めており、自身の生の「意味」を体系的かつ宗教的に位置づけて欲しがるように変化したのだと、本書を読んで推測される。

 

科学技術の発展が、人間の想像力に与える影響

ハラリ自身も注意を促しているが、人類が、生命や人間について再定義したり別種の想像力を持ち始める時期があり、それは科学技術の進展に随伴して起こることが多い。

たとえば、「写真」という、現実の風景や人物などを二次元の紙の上に写し取る装置が発明されて普及し始めて、「心霊写真」ブームが起こり、『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者コナン・ドイルまでもがハマった。

デカルトは一七世紀に動物は機械のようなものだとする「動物機械論」を提示している。

それからしばらく後の「一九世紀の科学者たちは、脳と心を、まるで蒸気機関であるかのように説明した。なぜ蒸気機関なのか? なぜなら、それが当時の最新テクノロジーであり、列車や船や工場の動力源だったので、人間が生命を説明しようとしたとき、生命も蒸気機関と類似した原理で機能しているに違いないと思い込んでいたからだ。心と体はパイプやシリンダー、弁、ピストンでできており、それが圧力を高めたり解き放ったりし、動きや行動を生み出す」(上、p148)。

これら当時の最新テクノロジーである機械工学の用語や概念は、心理学やフロイトの精神分析に大きな影響を与えた。同時代のテクノロジーが生み出した想像力は、人類の自己理解の仕組みに影響を与え、実際に医療などを通じて物理的な効力すら発揮したのだ。

「二一世紀の今、人間の心を蒸気機関にたとえるのは子供じみて見える」が、今はコンピュータがあるので「人間の心を、圧力を調節する蒸気機関ではなくデータを処理するコンピューターであるかのように説明する。だが、このたとえも、結局幼稚なものなのかもしれない」(p148-149)

幼稚かもしれないが、そう考えることに心理的な合理性があれば、その考えは大衆的に普及することになる。AI時代、ネット時代にそのような思想が説得力を持ちそうであることは、IT系の人々を見るとつくづく感じられる。