この夏、『プリンシピア』が大復刊。近代科学の始まりをとくと見よ

四百年経っても色あせない名著中の名著
中野 猿人 プロフィール

ついでニュートンは、木星がその極の方向に扁平であることについて、カッシニやパウンドらの測定結果を引用しつつ、惑星がとるべき形状に論及する。その扁平になる原因は、惑星がその軸のまわりに自転するためであるとし、地球上の各地における振子の観測が示す重力の緯度による変化がこの扁平化を説明することを証明する。

地球の形が回転楕円体(扁楕円体)であることは、分点の歳差を説明する。この現象は紀元前2世紀の中頃ギリシァの天文学者ヒッパルクスによって発見されたのであるが、ニュートンに至るまで、その正しい説明が下されていなかったものである。地球は正しい球体ではないのであるから、それに働く太陽および月の引力はその中心には向かわず、中心から少しずれた点に向かう。このために地軸は空間において一定の方向を保つことができず、一つの小さな円錐面を描く。これこそまさしく分点(春分点および秋分点)の移動を起こす原因であったのである。

地球儀の写真分点の移動の原因は地軸の向きにあった Photo by Gettyimages

ついで月の運動における各種の不等を述べ、万有引力の原理に基づいてそれらの解明を行なったのち、潮汐の問題へと進み、これをただちに月や太陽が及ぼす重力的効果、つまり起潮力のためであるとして説明する。

最後に、彗星についての見事な研究結果が述べられる。全巻の結びとして設けられた「一般注」において、ニュートンは「私は仮説をつくらない」という有名な言葉とともに、当時の思想家たちの共通な傾向に従って自家の神学を説いている。

そこには偉大な自然科学者、そして、敬虔なキリスト信徒としてのニュートンの面目が躍如としている。「……太陽、惑星および彗星という、このまことに壮麗な体系は、叡智と力とにみちた神の深慮と支配とから生まれたものでなくてほかにありえようはずがない」との言葉を、万有引力の当の発見者の口から聴いて、独特の響きと重みとを感じないではいられない。

『プリンシピア』を理解するための留意点

『プリンシピア』はけっして読み易い本ではない。その一つの理由は、そこに使われている術語の呼称、ないしはそれの意味が、今日のそれと必ずしも同じでないことである。たとえば、「運動」という言葉は、物体の動き、すなわち位置の変化を表わすふつうの言葉として使われているほかに、ときとしては今日いう「運動量」、つまり質量×速度を表わす術語としても使われている。

ゆえに、『プリンシピア』の内容を十分に理解するためには、そこに使われている用語の一つ一つを今日の言葉に言い換えてみる必要がある。また、流率法が使われているところは、これを今日の微積分法の記号や定理を使って検証してみる必要がある。さらにはまた、「命題」や「系」などの中で、証明がわざと省略されているところは、じっさいにそれを行なって、結論を確かめてみる必要がある。 以上のような見地から、訳者は『プリンシピア』の全巻にわたって、その内容を自分なりにいちいち検証し、あるいはニュートンの証明を追証し、理解納得し得たうえで、訳述を進めた次第である。

プリンシピア 自然哲学の数学的原理(全3巻)
 第Ⅰ編 物体の運動

 第Ⅱ編 抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動
 第Ⅲ編 世界体系
より『プリンシピア』を簡単に学びたい諸兄には、同じくブルーバックスから出版されている和田純夫『プリンキピアを読む』も是非一読を推奨する。二冊合わせて手元に置いておくのも良いだろう。