この夏、『プリンシピア』が大復刊。近代科学の始まりをとくと見よ

四百年経っても色あせない名著中の名著
日本語版としては永く絶版状態であったニュートンの代表作『プリンシピア』。たびたび復刊が叫ばれてきたが、ついに42年ぶりにブルーバックスから3ヵ月連続刊行にて復刊されることとなった。それを記念して、今回は訳者である中野猿人(なかの・ましと、1908-2005)氏の「訳者解説」(『プリンシピア 第Ⅰ編』に収録)をWeb用に再編集して特別に公開する。この夏、近代科学発展の端緒をその目で確かめてみてはどうだろうか。

本書『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』はサー・アイザック・ニュートン(Sir Isaac Newton, 1642-1727)原著『プリンシピア』(“Principia”;くわしく書けば “Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica”)の全訳である。

アイザック・ニュートン

改めて述べるまでもなく、原著はニュートンの主著であり、今日の物理学の原点ともいうべきいわゆるニュートン力学の根幹をなすものであって、古来幾多の卓絶した物理学者、数学者、天文学者らの脳裡を占有し、彼らを讃歎させてやまなかった真に独創的な書である。

ニュートンが微積分法を使わなかった理由

原著は当時の慣例にならってアカデミックなラテン語で書かれたということのほか、その形式はまったくギリシァ幾何学書の体裁を踏み、その論述の仕方もユークリッドやアポロニウスのそれと異なるところはない。ニュートンはそれまでにすでに「流率法」、すなわち今日の微積分法の発見を遂げていたのに、なぜこれほどの画期的な書をその新しい方法によらずに、ギリシァ風の古典的な手法によって構成したのであろうか。

その理由は想像するに難くない。すなわち、微積分法は当時、発見後日なお浅く、ことにニュートンの記法はライプニッツのものにくらべて不便であり、一般に行きわたっておらず、もしもこれを用いてニュートンが自分の理論を展開したならば、 人はその理論を受け入れる前に、彼らがまだ親しむに至らないその方法の妥当性を論ずるであろうことを、ニュートン自身最もよく知っていたからであるにちがいない。

こうして命題、定理が明快簡潔に、しかも常套的な語法を用いてつぎつぎと述べられ、定理に包括される関係事項は「系」、特に「注」において論究された。「注」はニュートンがしばしば特に重要な一命題ないしは一連の諸命題の後に書き添えた一般的な注意あるいは結論であって、全体の主題の上に強い光を投げかけている。

『プリンシピア』の構造

『プリンシピア』は序論と三つの編から成る本論とから成り立っている。まず序論では、従来いろいろと批判論議の闘わされた力学上の基礎的な諸概念として、質量、運動量、力をはじめ、絶対時間、絶対空間、絶対運動などが定義され、解説されており、絶対回転認識の可能性を示す有名なバケツの実験が記されており、つづいて、いわゆる運動の3法則をはじめ、力の合成分解の法則ないしは公理が述べられ、力学の理論的、方法論的な基礎が確立されている。

そしてこの基礎の上に立って、第I、第IIの両編では、諸物体の運動の諸形態があらゆる角度から詳細に論じられている。また第III編 『世界体系』は、前2編で述べられた理論の、惑星、衛星、彗星などの太陽系諸天体への応用を示すいわば「応用編」である。

いま、それら三つの編の内容のあらましを摘記しよう。 第I編では、まず1から11までの補助定理において微分の概念を示したのち、求心力の作用のもとでの物体の運動の論議にはいり、ただちに「面積速度一定の法則」が導き出されている。これは『プリンシピア』における最も基礎的な原理の一つをなすものであり、惑星の運動に関するいわゆる「ケプレルの第2法則」はこれによって証明されたことになる。

つぎに、(楕円運動の特別の場合である)等速円運動の場合について、もし周期が半径の3/2乗に比例するならば、 求心力は半径の自乗に逆比例すること、またその逆も成り立つこと──つまり距離の自乗に逆比例する引力が働くときには「ケプレルの第3法則」が成り立つことを示し、 ついで物体が円錐曲線を描くより一般の場合に移って、この場合にも力は距離と何らかの関係をもつものとして、その関係を見いだしている。しかも、同じ軌道でも、力の中心の位置が異なれば、力の法則も変わることを実例でもって示し、 一つの特別な場合として、もし力の中心が円錐曲線の一つの焦点にある場合には、力は距離の自乗に逆比例することを見いだしているのである。