『ブラタモリ』を学者たちが「奇跡の番組」と絶賛する理由

凄いのはタモリだけじゃない
尾方 隆幸 プロフィール

テレビ番組が科学を伝える場合、その情報拡散力が圧倒的であるため、諸刃の剣にもなる。もし誤解のある扱われ方をされると、非科学的な知識や情報が市民に広がってしまう。視聴率の高い人気番組ほど、その効果はてきめんである。

『ブラタモリ』のように、十分な取材を行い、誤解のないよう番組を編集する努力をしたとしても、視聴者に誤解・曲解される可能性はけっして消えることはない。視聴者は、自らの知識や経験というフィルターを通して、放送内容を咀嚼するためだ。そこで、伝えたいことと伝わったことがずれるという事態が起こる。その齟齬を完全に防ぐことはできない。

『ブラタモリ』こそ奇跡の番組だ

テレビ番組の制作にあたってなされている学術的内容の簡略化は、尺が限られ、また不特定多数の視聴者を相手にしている以上、やむを得ない。その一方で、科学の専門家は、事実(データ)と解釈、また断定表現と推定表現を、厳密に切り分ける。これらの切り分けは、学術論文では最重要ポイントのひとつと言える。

ところが、テレビ番組の場合、制作する側のフィルターにより、取材を受けた研究者のコメントが推定から断定にすり替わってしまうケースも見受けられる。さらに、編集の都合によって取材内容が切り貼りされ、特定の部分が強調されてしまうことで、誤解を生むケースも認められる。

それではテレビ番組において、科学的内容がどこまで伝われば「成功」とみなせるだろうか。非科学的な情報を発信しないことが前提であることは言うまでもない。その上で、断定と推定の混乱には特に要注意で、それが疑われる事態は「成功」とは言えない。しかし、その混乱がなかったとしてもなお、誤解・曲解を完全に避けることはできない。視聴者の科学リテラシーに依存するためである。

 

『ブラタモリ』はどうか。週末のゴールデンタイムに放送され、視聴者を限定しないという厳しい条件にありながら、視聴者の科学リテラシーを汲み取り、わかりやすさと正確さを両立させることに成功している。それはパブリックの目線では視聴率で、専門家の目線では番組ファンの研究者がたくさんいることで証明されていると言えよう。

番組内では“奇跡”というワードがたびたび登場する。しかし、私からみれば、地球科学のマニアックな話題が飛び出す番組が視聴率二桁を維持していることこそ奇跡だ。あまり馴染みのない地球科学の話題を、専門家が舌を巻くようなシームレスなストーリーとして紡ぐことに成功している『ブラタモリ』は、意図せずとも、地球科学のアウトリーチと科学コミュニケーションに貢献してしまっているのである。