『ブラタモリ』を学者たちが「奇跡の番組」と絶賛する理由

凄いのはタモリだけじゃない
尾方 隆幸 プロフィール

『ブラタモリ』の人気の秘訣は、わかりやすさと学術的な正確さを両立させていること、シームレスなストーリーを構築していることに集約されると、私も思う。「シームレス」とは「繫ぎ目のない」「境界のない(もしくは曖昧な)」というような意味である。

科学を扱うテレビ番組はたくさんあるが、そのほとんどは、特定の学問分野を背景に特定のテーマやトピックを扱ったものといえる。ところが『ブラタモリ』は、特定の学問分野にターゲットを絞り込むようなことはしない。学問分野の境界を意識せず、しかしきちんと学問的内容に触れつつ、あらゆる学問分野を柔軟に出入りしながら番組が構成されている。

制作班とのぶつかり合いは当たり前

『ブラタモリ』が、学術的な正確さを保ちながらわかりやすい内容になっていることは、わかりやすさの専門家である番組の制作班と、学術的な正確さの専門家である案内人との、徹底した協働作業の賜物といえる。専門を異にする両者がお互い妥協せず、時にはぶつかり合いながら落としどころを見つけていく作業によって、わかりやすさと正確さの両立が達成されている。

協業作業を図化したスライド/古今書院編集部提供

しかし、その協働作業は決して対等なものではない。当然ながら編集の責任と権限は制作班にあるため、案内人は制作班の意向に屈しやすい。案内人がいくら学術的な正確さを要望しようと、制作班に「それじゃ伝わらない」と一蹴されたら、それまでである。

『ブラタモリ』に限らず、テレビ番組を制作する側は、放送内容に直接関わらない情報を「ノイズ」とみなす。このノイズの選定と除去は、視聴者の混乱を避けるためには、欠かせない作業である。しかしその作業によって、学術的内容は極限まで削られ、簡略化される傾向がある

 

ブラタモリセッションで講演した小山真人さん(静岡大学教授。「#19富士山」などに出演)は、これを「単純化圧力」と呼び、その圧力に対して無理に妥協しないことが番組の学術的な正確さを左右すると指摘した。つまり、案内人の側がいかに意地を張れるかの勝負である。そのぶつかり合いが緊張関係を生むこともあるが、そこを乗り越えることができたとき、わかりやすさと正確さがハイレベルで両立する。